岩戸から吹き出す黒い霧。
それが、形を取り始めた。
「あれが…母さんが守ってきたもの…」
正気に戻った美紗が震えている。
「守ってきたんじゃない…」
「こうならないために…封じていたのよ…」
紗羅は、守り人の役目、その意味を美紗に伝えた。

「あれは…何なの?」
「うちらは、闇と呼んでおる…」
美紗の問いかけに、後鬼が答えた。
「闇…」
あの中に消えたい…
見ていると吸い込まれそうになる。
引き寄せられる。
生きる事に絶望した者は、直ぐにそうするだろう。
妖しき魅力を秘めた黒い霧。
真の恐怖、憎悪、絶望。
美紗はそれを見て、感じ、震えていた。
「玄武!」
真魚の波動が、次元の膜を伝わっていく。
「皆を守れ!」
真魚の棒が耀き、光の盾が美紗達を包み込んでいく。
光で出来た亀の甲羅。
それが皆を守っている。
嵐が地上すれすれに飛ぶ。
その間に、真魚は地面に飛び降りた。
嵐は光になり、消えた。
「あれは…私が見たものと…似ている…」
美紗が闇を見て言った。
「お主が見たのは、恐らく奴の一部じゃ…」
「奴は…出たがっておった…」
「それが、守人としての紗羅の体を苦しめた…」
後鬼が、美紗に説明する。
「ひょっとして…私が…原因なの…」
美紗はその事実に気付いた。
「呼び水になったのかも知れぬが、理由はそれだけでは無い…」
「光と闇は惹かれあう…この世は二極じゃ…」
後鬼が真魚と嵐、そして闇を見ていた。
「それ故に…この世が光で満たされる事はない…」
「人の心も同じじゃ…」
「誰もが、闇を抱え生きている…」
「人が生命を生み出すには、二極が必要なのじゃ…」
後鬼は目の前の、光と闇を目で追った。
「光と闇…二極が生み出す生命…」
美紗は、 この宇宙の理を見たような気がした。
「強大な生命を生み出すには、それ相応の陰と陽の二極が必要になる…」
「そして、それを抱え込むだけの器がなくてはならない…」
「器…魂のこと…」
美紗は直ぐに気付いた。
大きな力。
光と闇。
今、美紗の目の前にあるもの…
果てしなき悲しみを抱え、それに耐え、戦っている。
後鬼は真魚を見ていた。
だが、紗羅は気付いていた。
「あれだけの…霊力…」
「人にしては…大きすぎる…」
紗羅がつぶやいた。
「肉体が保たない…」
紗羅は、真魚の身体を心配していた。
「だから…うちがおるではないか…」
「それとて、偶然ではなかろう…」
後鬼がそう言って微笑んだ。
「そうですね…」
紗羅は安心したように、後鬼に笑みを返した。
「人にしては…大きすぎる…」
美紗が、真魚を見つめていた。
紗羅のその言葉を、気にしていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-