「この辺りだと…何だ、兎か?」
嵐の夢が膨らんでいる。
「普通は、鷹を使うのではないのか?」
嵐がぶつぶつと一人で喋っていた。
何か食べられる事がうれしいようだ。

「最近は、野菜ばっかりだったからなぁ…」
森の向こうに野が広がっていた。
ここが、猟場であるようだ。
だが、未羽はその野の手前で立ち止まった。
「先客のようだ…」
野の向こうに男が一人立っていた。
男だと分かるのは、男のなりをしていたからだ。
しかも、着物からすると庶民ではない。
「鷹匠か…」
真魚がつぶやいた。
「貴族の野は、もっと向こうの筈だ…」
未羽は文句を言うようにつぶやいた。
「なんだ、あいつ、素人か…」
未羽は遠くから、その男の力量を見抜いていた。
「あの鷹をどうにかしないと、空は飛ばせぬ…」
面倒な様子で美羽は歩き始めた。
「この未羽とやら、結構言いたいことは言うのう…」
その気の強さに、嵐が舌を巻いた。
「そうだな…」
真魚は、ただ笑って見ていた。
未羽はお構いなしに、男に近づいて行った。
「そこのお方…」
「その鷹を少しの間、静かにさせてもらえぬか?」
見知らぬ男に、未羽は畏れずそう言った。
先にいたのはこの男だ。
場の権利は、明らかに男にあるはずだ。
「言う事を聞かぬのであろう…」
「先ほど私も同じ目に遭った…」
「それは畏れだ…」
自らに起こった事実を男に告げた。
「あ、ああ…すまぬ…そうか…」
男がそう言って、自らの手に繋いだ鷹をなだめた。
未羽は、その男から少し距離をとった。
真魚達は、後ろの草むらに身を隠した。
「そんな都合良く、獲物が出てくるのか…」
空の力量はともかく、獲物がいないと話にならない。
「お主がいては…な…」
真魚が、獲物がいない理由を告げた。
「ちょっと面白いではないか…」
真魚の言葉を、嵐は否定しなかった。
嵐がそう言った後、風が吹いた。
その風が野を駆け抜け、森に消えた。
そしてまた、野に戻ってきた。
それは、ほんの一瞬の出来事であった。
男の鷹が暴れている。
「おい、呉羽どうした!」
男が必死で鷹をなだめたいる。
空はもう、その風を畏れない。
その身全てを、その神に委ねている。
それを、仕組んだのは真魚だ。
すると、森の脇から一羽の野兎が現れた。
その瞬間。
空の頭が動き、止まった。
空が野兎を見ていた。
少し前屈みになり体勢をとった。
美羽が空を解き放った。
空が飛んだ。
「おお…」
男が声を出した。
「見事だ…」
夕焼けを背にした、美羽の姿。
その一瞬の美しさに心を奪われた。
そして、男はその美しさを、心に刻み込んでいた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-