聡真と那海は真魚としばらく話をした後、帰って行った。
那海は、話し足りないようであったが、聡真が連れて帰った。
しばらくして、弦が乾燥した海草を集め、戻ってきた。
「車は使わないのか?」
「車?」
真魚は海草を運ぶ手段を言ったのだが、弦には分からなかったようだ。

「端に車を置いておけば、横に集めるだけで良いでは無いか…」
真魚は弦に丁寧に説明した。
「なるほど…それは考えもつかなかったよ」
そうすれば一度に沢山運べる。
作業も楽になる。
「今度、作って見るよ!」
弦は真魚の考えを受け入れていた。
「そういえば、千潮は戻って来ないな…」
「どうせまた、掴まっているんだろう…」
そう言いながら、弦は海草を台の上に積んでいた。
「千潮は寺の使用人か?」
「清の遠縁にあたるらしい、俺も似たようなもんだ…」
「清と言うのは、おじさんの…」
弦は言いかけて止めた。
だが、弦の顔に書いてある。
その理由は、真魚にも直ぐに分かった。
「似たもの同士か…」
弦と千潮の境遇は似ているようだ。
その事実がお互いの信頼に繋がっている。
真魚はそう感じ取っていた。
小屋の中には、木の樽が三つほど並べられていた。
そこに、海草を浸けて、表面の塩を洗い落とすようだ。
「これは、いつも千潮がやってくれているんだ」
そう言いながら弦は海草を樽に浸けていた。
「なかなか、美味い塩を作るのも、たいへんじゃなぁ…」
よほど、弦の塩が美味しかったのであろう。
嵐が珍しく、弦の作業を見ていた。
普段は人のすることに興味は持たない。
「海草の味は、関係あるのか?」
嵐の食に対する想像力が、膨らんでいた。
「今晩、この小屋を借りても良いか?」
「えっ、いいけど…こんな所で…」
真魚の突然の話に、弦は戸惑った。
身分の高い真魚に、弦は気を遣った。
「気にするな、夜風さえしのげれば、それでいい…」
真魚は、弦の心を感じていた。
だが、真魚には身分などどうでもいいことだ。
「こんな事は、初めてだよ…」
真魚に触れる事で、弦の全てが変わってしまう。
触れるものすべてが、新鮮で心地良かった。
心がときめいた。
変わっていく自分を、面白いと思った。
千潮の変化が、弦に教えてくれた。
変われないのは、自分のせいだ。
変わることが怖かったのだ。
だが、今は違う。
弦は、臆病な自分を受け入れていた。
臆病な自分が踏み出す一歩。
それを、面白いと感じ、楽しんでいた。
満天の星が、時折瞬いている。
大気の揺らぎが、星の光に彩りを与える。
遠きものより、近きもの。
その影響の力は大きい。
夜の浜には誰も来ない。
波の音がするだけだ。
真魚はその静寂を楽しんでいた。
空の星と、波の音。
今、これ以外の友はいらない。
だが、真魚は気がついた。
波の向こうに動く光。
星の光では無い。
「船か…」
この辺りは、夜に漁などしない。
その光は、限られた部分で動いている。
「島か…」
昔、同じようなことがあった。
有り得ない事ではない。
揺れる火の側で、嵐が寝ていた。
しばらくすると、波の向こうの灯りは消えた。
「あそこに…何があるのだ…」
聡真達は、このことを知っているのだろうか…
真魚は少し気がかりであった。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-