一瞬で雲を抜けた。
「わぁ!前より速い!」
菜月は嵐の首に抱きついた。
「一体、どこまで行くのだ…」
桜が気にしている。

大地は小さくなり、海が見えている。
嵐の霊力に守られていなければ、生きてはいられない。
「これが、寄り道か…」
桜はそう言いながらも、楽しんでいた。
今まで見たことがない世界。
嵐に出会わなければ、観る事が出来なかった。
「大地って、丸いんだ…」
菜月が感動していた。
「何が上すらも分からぬ…」
桜の言葉は、ある意味で真実であった。
「お主らは正反対だが、互いに必要なものじゃ…」
「俺と兄者に似ている…」
嵐がそう言った。
嵐にしてみれば、空間の距離は関係ない。
どこにいても一瞬で戻れる。
相容れぬ二つの魂。
その距離の方が厄介である。
かつての嵐と、操られた青嵐のように…
すれ違う心の距離は、計り知れない。
「嵐にお兄さんがいたの?」
「そうだ、少し前まではな…」
「今は…いないの?」
菜月は、嵐を気遣った。
「今もいる…俺の中にな…」
「死んじゃったの?」
「そうではない…融合したのだ…一つになったのだ…」
その言葉を聞いて、菜月は安心した。
「互いの力を合わせるのだ…」
「そうすることで、もっと自由になれる…」
「どういうこと?」
菜月は嵐の言った意味が分からない。
「目をとじて心を拓け…」
嵐が二人に言った。
「心を拓く…」
菜月は、その言葉に惹かれた。
言われるままに目を閉じた。
「あ…」
「音が聞こえる…」
菜月がそれを感じた。
「波動だ…」
「波動?」
「この世を遍く行き渡る、波だ…」
「心地いい…」
菜月は目を閉じた。
その波に身を任せた。
「あれ…」
「桜…?」
菜月は不思議な感覚に囚われた。
その波を通して桜を感じた。
「面白い…」
桜もそれを感じていた。
「その波を通して、全ては繋がっている…」
嵐が言った。
「これって…」
桜が気づいた。
「まさか…」
菜月が感じた。
「それでいい…」
嵐がその答えを言った。
「わぁ…!」
金色の光の粒が舞い降りていた。
気がつくと、二人は金色の光に包まれていた。
次の朝、日の出の前に、役人達が動き出していた。
山道を登る姿が見える。
既に陽が動き、時間が過ぎていた。
足取りはだんだんと弱くなっていく。
勿論、牛車などはない。
歩いて行くしか方法は無い。
付き人に挟まれ、男が歩いている。
前の付き人が時折、振り返って様子をうかがっている。
日頃、身体を動かすことなどない。
既に、男の身体は悲鳴を上げている。
だが、鬼のような顔をして歩いている。
今、この男を支えているのは、つまらない自尊心だけだ。
はぁ、はぁ…
「あと、どれくらいだ…」
口を開けたまま男が言った。
心臓と肺が、悲鳴を上げている。
「あの山の向こうでございます」
付き人が、枝の隙間から見える山を指さした。
「この辺りで一息、いかがですか…」
付き人が、気を遣って言った。
「間に合うのか…それで…」
男は、息を切らしながらそう言った。
「大丈夫です、間に合います」
「そうか、それならいい…」
男はその場に座り込み、竹筒の水を飲んだ。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-