きっかけを失った闇が、嵐に行く手を遮られた。
そこに朱雀の炎が迫ってくる。
その炎で焼かれ、勢いが失われていく。
「嵐、腹の具合はどうだ…」
真魚が嵐を呼んだ。
「ぼちぼちってところか…」
「ならば…」
嵐の答えを聞いて、真魚の光の輪の耀きが増した。
棒に青い光が集まり、燃えた。
「青龍!」
青い炎の螺旋が天に向かう。

「征け!」
ぎゃいぃぃぃん!
真魚が棒を振ると、青龍が叫んだ。
そして、闇に向かって降下した。
青い炎を吐きながら、闇の中にその首を潜り込ませた。
その瞬間。
闇が固まっていく。
青龍の浄化の炎が、闇を変えていく。
青龍がその首を抜いた。
固まった闇が崩れ、塵になっていった。
「戻れ!」
真魚が叫ぶと朱雀と青龍は光となり、棒に吸い込まれた。
真魚が膝を着いた。
「大丈夫か…」
嵐が直ぐに飛んで来た。
「お主こそ、満腹なのか…」
「負け惜しみか…」
真魚の言葉に、嵐がそう言った。
「いいお仕事でしたな…」
聞き慣れた声。
後鬼が後ろに立っていた。
「何かと思って来てみれば、やはり真魚殿でしたか…」
前鬼も立っていた。
「お主ら、今頃なんじゃ!」
嵐が前鬼と後鬼を窘めた。
「誰かさんの、食事の邪魔はしたくなかったのでな…」
後鬼がもっともな言い訳をした。
「それより、真魚殿、お体は…」
後鬼が真魚を気遣っている。
「大丈夫だ、いざとなれば理水の厄介になろう…」
真魚がそう言って立ち上がった。
「この男は?」
直ぐ側に太った男が、泡を吹いて倒れていた。
「闇にやられたようだ…」
真魚が笑っている。
「自業自得じゃ、こいつが呼んだのだからのう…」
嵐が前足で転がした。
塊が仰向けになった。
後鬼が胸に手を当て、様子をうかがった。
「命に別状はなさそうじゃ…」
「情けない!人の命を奪おうとしながら、自分はこの態だ」
嵐が怒りを露わにしている。
そこに陽炎が様子を見に現れた。
「兄上は…」
「生きておるぞ、心配は無い…」
後鬼が陽炎を見た。
「あなたは…」
陽炎は驚いていた。
額の角、溢れる波動、人では無い。
「見ての通り鬼じゃ、うちが後鬼、こっちが前鬼じゃ」
「真魚殿のお供をしておる」
「お供?」
神の犬…朱雀と青龍…そして、鬼。
陽炎がその言葉に呆れていた。
「お主、なかなかのものじゃのう…」
後鬼が、陽炎の波動を感じている。
「ま、真魚殿が行くところ、仕方が無いが…」
後鬼はそう言って笑っていた。
「どうする?」
「生きてはおるが、この男、しばらくは動けぬぞ…」
後鬼が陽炎に言った。
「しばらくとは?」
「魂の一部を食われたのじゃ…」
「ま、歩けるまで…ひと月というところじゃろ…」
後鬼は塊を見て言った。
「それぐらいで済むのなら、いい薬だ」
「薬だと?」
後鬼は陽炎と塊の関係を量っていた。
「兄上は、私の娘を殺そうとしたのです」
陽炎の怒りが収まった訳では無い。
「殺そうとした?では、生きておるのか?」
後鬼はそう理解した。
「ええ、生きていました…」
「このお方が、連れて来てくれました…」
陽炎の目に涙が浮かんでいた。
「なるほど…」
後鬼は微笑んで真魚を見た。
「俺と言うより、嵐だな…」
真魚が笑っている。
「お主、また何か悪さをしたのか?」
後鬼は嵐を見た。
「あ~あ、疲れた」
嵐はそう言って子犬の姿に戻った。
「お主らは俺を偏って見ておる!」
嵐に対する評価、その事を言っている。
「俺は、食い物の臭いに惹かれただけじゃ!」
嵐が堂々と言い訳を言った。
「臭いは臭いでも、食い物の臭いか!」
後鬼が呆れている。
「嵐のおかげです」
陽炎はそう思っていた。
「山に捨てられた娘を、嵐に似た犬が守ってくれたようです」
「嵐に似た…」
「もしや、青嵐のことか!」
後鬼はその言葉に驚いた。
「残念じゃが、兄者の記憶は俺にはない…」
融合し一つとなった今、青嵐の記憶は消えている。
「長い間、死んだと思っていたのです…」
「私にとっては奇蹟です」
陽炎は感謝していた。
「そういうことが…」
後鬼が近寄ってくる者達を見ていた。
「それに、家族が増えました」
そのもの達を見る陽炎の目は、優しさに満ちていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-