塊は不機嫌そうに金塊を懐に入れた。
「木葉、奴らを陽炎の所に案内せい…」
「はい!」
下女と思われる少女は、塊の言葉に笑みを浮かべた。
「ほう…」
喜びの波動。
少女の心からその波動が放たれた。
「面白い…」
少女の笑みの意味。
真魚はそれを感じ取っていた。

その木葉という少女に連れられ、真魚達は塊の屋敷を出た。
「佐伯様、ありがとうございます」
雫の父、辰は真魚に頭を下げた。
「あのような男に、いつまでも付き合う必要は無い…」
塊と言う男…
真魚はその中にあるものを見ていた。
「でも、どうして私共のような者に施しを…」
雫の母が真魚の行動を、不思議に感じている。
「あのような所で出会ったのも、何かの縁だ…」
真魚はそう言って笑みを浮かべた。
そう言いながらも、前の木葉の事を気にしている。
「縁でございますか…」
雫の母は納得はしていない。
納得はしていないが、真魚の好意を有り難く感じていた。
「嵐、佐伯様ってなんだか違う…」
雫は真魚の事を気にしていた。
「恐ろしい奴だ、何度もひどい目に遭わされている」
「あなたは神様なんでしょ?」
神様が人を畏れている。
雫は不思議に思っている。
「まあ、今に分かる」
嵐が何かを感じている。
この先にある何か…
既に、真魚の未来もそこにあるのである。
そこは、廻りと変わらぬ住まいであった。
たいそうな塀があるわけでもなく、門があるわけでもない。
ただ一つ違うことは、小さな別の棟が一つあることだ。
それは、恐らく祈祷や占術を行う特別な場所であろう。
真魚はその事に気づいていた。
「木葉、ちょっと待ってくれ…」
真魚が木葉を呼び止めた。
「辰、籠を…」
真魚は辰が降ろした籠の中から野菜を一つ選んだ。
南瓜であった。
南瓜を手にした真魚が手刀印を組む。
「これを陽炎に…」
真魚はそう言って木葉にそれを渡した。
木葉が怪訝な表情を見せた。
「案ずるな、俺は味方だ」
真魚が木葉に微笑んだ。
「味方…」
木葉は真魚の言葉の中に心を感じたのだろうか。
それを持って陽炎の住まいに入って行った。
「さて、残りの野菜は俺が頂こう」
真魚がそう言って三つの籠を集めた。
そして、腰の瓢箪の栓を抜いた。
小さな瓢箪の口に、次々と野菜が飲み込まれていった。
雫と父と母。
三人は口を開けたままそれを見ていた。
「佐伯様、これは…!」
辰が驚きのあまり真魚に尋ねた。
「気にするな、ただの幻術だ…」
真魚はそう言って笑っていた。
籠三つ分。
それで、何日もつか…
それは嵐の胃袋に聞いてみないと分からない。
「陽炎様…これを…」
木葉が持つ南瓜。
「これは、誰が…」
南瓜に込めた真魚の心を手に取った。
それを陽炎は感じ取っていた。
「隣村から来た方が、陽炎様に会いたいようです」
「塊様にはお話が通っています」
「先ほどの波動…」
「兄上が何か粗相をしでかしたか…」
陽炎は真魚の放った波動を感じ取っていた。
塊は陽炎の兄らしい。
「作物の入った籠を蹴り飛ばしたのです」
「それで…」
「ある方がその場を収めました」
「どうやって収めたのだ」
「なにやら金か石かを塊様に…」
「なるほど…」
陽炎はそう言って笑みを浮かべた。
「木葉、その者達をここへ連れてきてもらえぬか?」
「ここへですか?」
木葉が陽炎の言葉に驚いている。
「そうだここへ連れて来て欲しい」
「陽炎様、犬がいます」
「犬だと」
陽炎は考え込んだ。
木葉の心を感じ取っていた。
「犬は困るな…」
陽炎はそう言って木の葉の頭を撫でた。
愛しき我が子のようにその心で包み込んだ。
「分かりました」
木葉は陽炎の好意に応えた。
今までにこのような事はなかった。
母のような陽炎と、二人だけの空間。
そこに他人を入れる。
それは木葉には許せないことだった。
いつもなら小屋で人と会うはず。
木葉には陽炎の考えが理解出来なかった。
木葉が外に出たとき、皆の様子がおかしかった。
「どうかなされましたか?」
木葉は気になって尋ねた。
「あ、いや、佐伯様の幻術に驚いていた所です…」
辰は木葉の問いにそう答えた。
「幻術?ですか…」
見れば南瓜などの作物が入っていた籠が、空になっている。
「陽炎様が待っています」
木葉はさほど驚く様子もなく、皆を奥の住まいへ案内した。
「犬は外で待たせてください、陽炎様は犬がお嫌いなのです」
木葉がそう言って嵐を見た。
「嫌われちゃったわね…」
雫が小声で嵐に言った。
「犬ではない、俺は神だ…」
雫にからかわれ嵐は少し落ち込んだ。
「天からの贈り物だ…」
ほどよく焼けた南瓜を一つ。
それを嵐の足下に置いた。
いつ焼いたのかは真魚しか知らない。
「熱いぞ、出来たてだ…」
真魚が笑っている。
俺は熱いものが苦手だ。
嵐がそう言う顔を見せている。
「一度火を通すと甘みが増す、一番美味しい食べ方だ」
「美味しいものはゆっくり味わう方がいい…」
長い話になる。
真魚は嵐にそう告げていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-