前鬼が仕掛けを張り終わり、帰ってきた。
「皆、お揃いか…」

「ところで…真魚殿…」
前鬼が話を切り出した。
「あのものを見ましたか?」
前鬼もその姿を、どこかで見かけた様だ。
「その事だが、仕掛けでどこまでわかる?」
「どこまでとは?」
「この村の中なら分かるのか?」
「恐らく…」
前鬼の返事は曖昧であった。
「奴がその仕掛けに気づかねば…ですが…」
曖昧な返事の答えがそれであった。
「糸のようなものですからな…」
「奴が気づいて飛び越えたり、くぐったりしなければと言うことですな…」
前鬼は真魚に説明した。
「近くまで来れば、俺たちは波動で分かる…」
「問題は村人だ…」
村人を襲うことはないと、真魚は考えている。
だが、それも保証されたものではない。
「一つ腑に落ちない事がある…」
「それはどういう事じゃ」
子犬の姿に戻った嵐が問い詰める。
「今まで闇に取り込まれなかったことだ…」
闇に身を落とした者は、いずれ闇に消える。
それが、何年もあの状態を保っている。
真魚にはそれが腑に落ちない。
闇を使う者ではない。
闇に囚われたのだ。
その肉体もほぼ死んでいる様なものであろう。
真魚が感じたものはそういう状態であったのだ。
「うちも最初は生け贄のせいかと思っていたのだが…」
後鬼が何かを感じている。
「だが、何だ、媼さん!」
前鬼は、後鬼が何かを掴んでいることに気づいた。
「稜の父と、奏と響の父が、同じ頃行方が分からなくなっている…」
「それは、本当か!」
真魚が三人に後鬼の話を確認した。
三人はだまって頷いた。
「そういうことか…」
真魚の中に何かが閃いた。
「どういうことなのだ」
嵐がそのことを知りたがっている。
「奏と響の母が危ないかも知れぬ…」
真魚の言葉は皆を驚かせた。
「どうして…?」
奏が心配している。
「この布は波動を隠す」
「奴は今、目的を見失っている筈だ…」
「それと、奏の母がどういう関係があるのだ?」
嵐が全く理解出来ないでいた。
「稜と奏と響の波動で奴が目覚めたということと…」
「二人の父が消えたことは、無関係ではないかも知れぬということだ…」
真魚が説明した。
「目的を失って…引き寄せられるものがある…」
前鬼がその事に気づいた。
「それが、奏の母か…」
嵐が言った。
「そして、稜の母だ」
後鬼がその事実を付け加えた。
「すると…あの中に…」
稜が青ざめている。
「行くぞ!嵐!」
真魚が嵐に声をかけた。
「前鬼と後鬼は三人を見ていてくれ!」
真魚がその言葉を残し、嵐と共に夜空に消えた。
「私達のお父さんが…」
奏が後鬼の顔を伺っている。
「そうかも知れぬ…」
「助からないの?」
響が後鬼に尋ねた。
「覚悟はしておいた方が良いな…」
後鬼の言葉は残酷であったが、それが正確な判断と言えた。
「恐らく、お主らの父は真実に気づいたのじゃ…」
「そして、退治しようとしたに違いない…」
後鬼がそう言った。
「できなかったんだ…」
稜がつぶやいた。
「それが、おじさんだと気づいたんだ…」
「だから…父さんは…」
奏もそうだと感じた。
「父さんは人を殺せない…」
響もその事実に気づいた。
「だが、闇は容赦はせぬ…」
前鬼は何度も見ている。
闇に飲まれ消えていく者を。
闇に消えた者はこの世に戻ることはない。
出口はないのだ。
「踏みとどまっておるのかもしれぬな…」
「愛しき者のために…」
後鬼が感じた重き波動。
その重さは、悲しみで埋められたものかも知れなかった。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-