月の光が優しく闇を包んでいる。
「今宵の月は大きく美しい…」
百目鬼が月を見ていた。
その美しさは百目鬼の心が創り出したものだ。

「これからどうするのじゃ…」
後鬼が百目鬼に言った。
「さて、しばらく時の中に埋もれてみるか…」
「その時まで…」
月の光が百目鬼の美しさを引き立てる。
「これを持っておけ」
百目鬼がそう言って真魚に何か投げた。
淡い光の中、真魚は難なく受けた。
「ほう…」
真魚は手にしたものを見て笑みを浮かべた。
「なんだ、それ?」
虹色に怪しく光る玉。
嵐が横でそれを見ていた。
「有り難く借りておく…」
真魚は百目鬼にそう言った。
「勘違いするな、逃がさないためだ…」
百目鬼が欲しいものは真魚の棒だけだ。
「面白い男だ…」
「あのくそ爺に感謝せぬとな…」
百目鬼は自分を笑う。
憎しみの余り、その糸の意味に気づけなかった。
「これも楽しみに繋がるのか…」
月の光が映し出すその美は、その内側にも存在する。
「お互い、あのくそ爺には頭が上がらんな…」
真魚がそう言って笑った。
「はははっ…そう言うことか…」
百目鬼の身体が輝いた。
「後鬼、お主にも世話になったな…」
百目鬼の言葉に後鬼は笑顔で答えた。
「また、逢おう…」
一筋の光が山に向かって飛んでいった。
「真魚、本当にあの鬼に棒を預けるのか…」
子犬の嵐がぽつりとつぶやいた。
「そのつもりだ…どうせ俺以外の者には扱えぬ…」
真魚がそう言った。
「その自信はどこから来るのだ…」
嵐が真魚を見て呆れていた。
「ま、俺もそう思うがな…」
嵐は真魚の力を信じていた。
「では、うちらもぼちぼち行くとするか…」
「柊には言ったのか?病のことを…」
前鬼が後鬼に確認した。
「死は免れぬ…」
「それは誰であっても同じじゃ…」
「だが、少し遅らすことは出来る」
「せめて子供達が育つまで…」
後鬼がそう言って月を見た。
『懸命に生きよ!』
百目鬼が柊にその言葉を贈った。
「柊もそれは分かっておる…」
後鬼は柊の心を感じている。
残された時間は柊の全てだ。
「うちらも…時々見に来るか…」
「そうだな…」
前鬼は後鬼の想いを受け取った。
「行くか!」
「楠の神にも礼を言わぬとな…」
そう言って前鬼と後鬼が跳んだ。
「お主、何か企んでおるな…」
真魚が口元に笑みを浮かべていた。
嵐はその表情を見逃さなかった。
「そう言う顔をしている時は、碌なことが無い…」
嵐は何度もそういう目に遭っている。
「いや、ちょっと華にな…」
「お主、あのような幼き者まで利用するのか!」
真魚の言葉を聞いて嵐が呆れていた。
「これは華から言い出したことだ…」
「母の命を守りたいと…」
真魚がその事実を口にした。
「華はもう知っているのか…」
嵐は驚いた。
柊の死。
それは確実に近づいてくる。
「あの時か…」
華が紡いだ糸は皆の想いだ。
「後鬼から薬の事を聞いていた…」
「後鬼は持っている知識の全てを華に伝えた…」
真魚の言った言葉は嵐には信じられなかった。
「それで笑っていたのか…」
華が持つ途方もない力。
広げられた知識の布は果てしなくひろがっている。
「華は本当に後鬼の知識を全部、手に入れたのか…」
嵐には受け入れがたい事実であった。
「後鬼の知識もいずれは消える…」
それを後鬼も分かっている。
「良い薬士になるかも知れぬな…」
真魚がそう言った。
柊を救いたいという華の願い。
それが形になろうとしている。
「それでだ、嵐…」
真魚の企み。
嵐は既に感じ取っていた。
言葉ではない。
真魚の心は嵐に伝わっている。
開放した霊力の波動。
それが宇宙に広がる。
「どこにでも跳んでやる!」
嵐は真魚を乗せて飛んだ。
嵐が笑っている。
「だが、華の為だ!」
丸い月が全てを見守っていた。

― 命の絆 完 ―
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-