「それでだ…」
真魚は話を変えた。
「父が出て行く前に何かなかったか…」
全ての始まりはその辺りから始まっている。
「これと言って…」
柊に思い当たる事がない。

「黑だ…黑が来た…」
「父ちゃんが黑を連れてきた…」
蓮が気づき、華が状況を言った。
「なるほど…自分の代わりか…」
そこに父の思いが存在していた。
牛がいれば畑仕事も多少は楽になる。
「そんなこと、黑に聞けば良いではないか」
嵐が口を開いた。
「だいたい、あいつが何かしでかしたに決まっている」
嵐が最初に見た印象はそう言うことだ。
「黑は悪くない!」
華がその言葉に抵抗する。
「安心しろ…」
「だが、一つ確認しなければならぬ…」
柊と楓に繋がった時、あるものが見えた。
「父ちゃんのことか…」
蓮がつぶやいた。
「そうだ…」
真魚がそれだけ答えた。
父の生死を確認する。
それは、家族にとっては残酷な結果となるかも知れない。
「では、そうすれば良いではないか」
嵐は面倒な事が嫌いだ。
「蝦夷へ飛ぶか!」
嵐は気が短い。
「待て…」
嵐を真魚が止めた。
「ここで霊力を開放する気ではあるまいな…」
真魚が嵐を窘めた。
「いや…言ってみただけだ…」
嵐は廻りを確認した。
自分の霊力でこの家がどうなるかを理解した。
「蓮を借りても良いか?」
真魚が母の柊に聞いた。
出会って間もない男に我が子を預けるなど、常識では考えられない。
「蓮はどう?」
柊は蓮にその答えを委ねた。
その問いは柊が了解したという証だ。
「俺は行きたい!」
蓮の瞳が決意を語っている。
「決まりだ…」
真魚は笑みを浮かべた。
「華も行きたい!」
華がそう言う。
「柊は誰が見るのだ?」
真魚が華を見て笑った。
「それに華には大事な仕事が残っている…」
真魚が言い聞かせる様に、華の頭を撫でた。
「大事な仕事って…?」
「それは帰って来てからのお楽しみだ」
真魚は笑って華の瞳を覗いた。
「わかった、母ちゃんは私が見る」
華は真魚の心を受け取った。
華の決意がそこにはあった。
「いるのだろ、前鬼、後鬼」
真魚が二人の気配を感じている。
ひゃひゃひゃ~
笑い声が聞こえた。
「今日は儂の勝ちじゃ」
前鬼の声がする。
「最後の一歩で負けか…」
残念そうな後鬼の声がした。
がた、がた
「ちょいと、お邪魔するよ」
ただの板の戸を開けて二人が入ってきた。
背中に笈を担いだ山伏のような格好をしていた。
赤鬼の前鬼と青鬼の後鬼だ。
二人とも額から角が出ている。
「お、鬼!」
華と蓮が驚いている。
「本当にいたんだ…」
華が感動している。
怖がる様子はない。
「男の方が前鬼で、女が後鬼だ」
真魚は子供にもわかる様に言った。
「留守の間は二人が守る」
真魚が勝手に決めている。
「そういうことじゃぞ媼さん」
「うちの霊力を見込んでのことじゃ」
後鬼には様々な薬を調合する知識がある。
その究極が後鬼の理水だ。
「ま、容体が急変することはないだろう」
真魚はそれだけ言った。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-