闇と戦う嵐の前に、突然青い光が飛び込んできた。
「こら!真魚!」
真魚が放った青龍であった。
「後はこいつらに任せておくか…」
嵐は満腹に近かった。

気がつくと鈴鹿御前の館が燃えていた。
嵐は真魚の元に飛んだ。
「真魚、まだあの龍を飼い慣らしておらんのか!」
嵐は危うく食われる所であった。
「お主なら避けるであろう…」
絶大な信頼と取っていいのだろうか。
「俺は仕上げに行く」
嵐はそう言って火の粉が舞う館に飛んだ。
そこには…後鬼がしびれを切らして待っていた。
「遅いわ!もうとっくに前鬼の方は終わっておる!」
「本当にいいのか」
倭に見つからないように嵐が確認する。
「うちの一世一代の大舞台じゃ…」
後鬼はやる気満々であった。
後鬼は炎の舞台を背に前に出た。
だが、倭の兵は狼狽えたまま後鬼に気がつかない。
「何じゃ、軟弱者ばっかしじゃな…」
後鬼はその体たらくに呆れていた。
『面白い…手を貸してやる…』
美しい波動が響いた。
どおぉぉぉぉぉん!
その瞬間、後鬼の前に雷が落ちた。
その音と光が倭の兵を惹きつける。
「あそこにいるぞ!」
誰かが叫んだ。
館の前には鈴鹿御前となった後鬼がいた。
その鈴鹿御前が新たな術を使ったのだ。
倭の兵はそう思っている。
「撃て!」
攻撃の命令が出た。
何百もの矢が一斉に鈴鹿御前に向かった。
鈴鹿御前はその矢を全て包み込むように両手を広げた。
何かの術か…
誰もがその矢が落とされると思った。
だが、その矢は見事に鈴鹿御前の身体を貫いた。
両手を広げた鈴鹿御前に幾つもの矢が刺さり続ける。
「やったぞ!」
うおぉぉぉぉぉ!!!!
森の中に数百の叫び声が響く。
身中に矢を受けて鈴鹿御前が膝をつく。
そのまま地を這うようにして館の炎の中に消えていった。
どぉぉっぉぉぉん!
大きな音を立て鈴鹿御前の館が崩れていった。
うおぉぉぉぉぉぉぉ~!
崩れ落ちた館を前に歓喜の叫びが響く。
その波動は陣で指揮をとる田村麻呂にも届いていた。
「終わったようだな…」
その口元に浮かぶ笑みの意味。
それを倭で知る者はいない。
「朝まで屋敷を取り囲んでおけ!誰一人逃がすな…」
田村麻呂が叫んだ。
その言葉は倭の兵の心に刻まれていた。
子供達が薄暗い中を出発してから時間は過ぎた。
朝日が射し大地を温め始めた。
朝早くから叩き起こされ眠そうである。
それでも一生懸命に歩いているのは、何かを感じているからだ。
こんな事は一度も無かった。
館を出ることなど一度も無かったのだ。
理由は分からない。
だが、歩かなければならない。
子供でもそれぐらいはわかる。
「あれ、何か変な臭いがする!」
子供の一人が気づいた。
「本当だ!変な臭い~!」
廻りの子供もそれを嗅いでいる。
凪はその香りを知っている。
懐かしい香り。
「あと少しで着くぞ!」
颯太も子供達に発破をかけている。
「御前様、大分無理してる…」
凪はそう思って振り向いたが、鈴鹿御前は意外に平気なようだ。
「あれっ?」
どうやら力の使い方が身についたらしい。
昨日より早く歩いているような気がする。
香りが強くなる。
音がしている。
「何の音?」
楓が凪に聞いている。
凪は知っている。
「自分で確かめれば?」
凪は楓に微笑んだ。
「あそこまで行けば分かるんじゃない?」
そう言って凪が指さした。
「いいの?」
楓が凪の顔色をうかがっている。
凪は鈴鹿御前をちらりと見た。
鈴鹿御前が微笑んでいる。
「見るだけよ!」
凪のその言葉で子供達が走り出した。
坂道を駆け上がった。
きゃぁぁぁっ!
子供達の叫び声が聞こえる。
波の音がしている。
子供達は砂浜を走り出した。
「見るだけって言ったでしょ!」
凪の叫び声は誰にも聞こえていない。
「うわ~これって海?」
「なんで!こんなに大きいの!」
子供達は海を見るのが初めてであった。
「あれが本当の…子供の姿だな…」
「かつて…私もそうだった…」
「懐かしい…」
心が子供時代に帰っていく。
鈴鹿御前は微笑んでそう言った。
「ええ…」
凪は目に涙を浮かべていた。
「私にこの声を聞かせたかったのか…」
鈴鹿御前は海を見ている。
「えっ…」
凪にはその言葉の意味が分からなかった。
「やっと、ここまで来られた」
鈴鹿御前は凪に向かって微笑んだ。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-