鈴鹿御前の館。
その周りには倭の兵が張り付いている。
その数、数百…
もう後戻りは出来ない。
四人は西対に潜んでいた。
「さて、どうするか…」
前鬼が考え込んでいる。

「真魚殿は何も言って無かったのか?」
後鬼が真魚の不自然な行動を指摘する。
「何も言わないのではないぞ…」
前鬼にはある考えが浮かんでいる。
「たった四人でどうすると言うのだ…」
飛炎が諦めたように言葉を発した。
「確かにな…それに、策もなしか…」
柱に背を預け疾風が言う。
「策がないのではないぞ…」
前鬼が二人を見ている。
「では、どうするのだ…」
飛炎が鋭い視線を向ける。
「策がないのではない、策の施しようがないだけだ…」
後鬼がその事に気づいていた。
「策の施しようがない…」
疾風が考えている。
「それは、予想できないと言うことか…」
疾風は頭がいい。
何かにに気づいている。
「お主ら…人を食らう魔物を知っておるか…」
前鬼が二人に聞く。
「人を食らう…魔物だと…」
二人が驚いている。
「その様子だと見たことはないようじゃな…」
後鬼が見抜いている。
「人には一人ずつ固有の波動が出ている…」
「音のようなものだ…」
「波動…?」
飛炎と疾風は初めて聞く。
「倭の兵にもそれがある…」
「その波動が千も集まればどうなるか…」
後鬼がその両手を広げて説明している。
「千の笛の音が聞こえていると思え…」
前鬼がそう言う例えをする。
「山中に響く…」
疾風が想像する。
「その音を魔物が聞きつける訳だ…」
後鬼が答えを言った。
「来るのか、その魔物が…」
飛炎が新たな答えを求めている。
「たんまりあるご馳走を見逃すと思うか…?」
前鬼が笑って言う。
「これだけは言っておく…」
「見たら、逃げろ」
前鬼が念を押す。
「逃げろだと…」
飛炎はその恐ろしさを知らない。
「それに触れた者は生命を吸われる」
「生命を吸われる…どういうことだ…」
頭のいい疾風でも、その理解を越えている。
「良くて廃人、最悪は死だ…」
前鬼が事実を言った。
「死…だと…」
飛炎はその言葉が信じられない。
「恐らく…」
「真魚殿はそれを見方に付けるつもりだ…」
前鬼が全てを二人に告げた。
「あの男は魔物を見方にするというのか!」
飛炎が驚いている。
そんな話は聞いたことがない。
しかも、そんな簡単な話ではないはずだ。
「正確には味方になってしまうのだ」
前鬼が説明する。
「それ自体は生命を食らうだけだ…」
「儂らにとってもそれは同じだ…」
「それは倭の兵にとっても同じだ」
「だが、儂らはそれが何であるか知っている」
前鬼が丁寧に説明する。
「倭の奴らは敵の術か何かと思うかもしれない…」
「そう言うことか…」
前鬼のその一言で疾風は理解した。
「倭の兵は狼狽え逃げ惑うだろうな…」
疾風がその意味に気づいている。
「儂らが手を出さずとも自滅じゃ…」
後鬼がその未来を想像している。
「だが、ひとつ分からぬ事がある…」
前鬼が話を変える。
「それでは田村麻呂が鈴鹿御前を成敗したことにはならぬ…」
そう言って前鬼が考え込んだ。
「その話の前に飯でも食わぬか?」
皆が振り向いた。
そこに真魚と子犬の嵐がいた。
「うるさい奴がいるのでな…」
そう言って真魚は腰に下げている瓢箪の蓋を取った。
その口から沢山の食べ物が出てきた。
飛炎と疾風は何が起こったか理解出来ない。
その時、既に嵐は食べていた。
「腹が減っては戦はできぬ!」
別に…戦が好きなわけではない。
だが、嵐はご機嫌だ。
「食わぬのか?」
真魚が二人に勧める。
「嵐の言うとおりじゃ」
後鬼が果実を囓っている。
飛炎と疾風もその果実を取って食べた。
「うまい…」
初めて食べる果実であったがその味は格別であった。
不思議な瓢箪であった。
それは全てを繋いだ瓢箪でもある。
だが、二人がもっと驚いたことがある。
それは子犬の食べた量が、皆の分を足したよりも多かったことだった。
「食った~~っ!!!」
嵐は満足げに寝転んでいた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-