鈴鹿御前は子供達を連れて山道を下りている。
先頭は颯太が、真ん中に凪、しんがりは鈴鹿御前が務めている。
凪と颯太は背中に小さな子供を背負っている。
「峠の道まで行ければ…」
鈴鹿御前は焦っていた。
登りよりは早い。
しかし、四、五歳から十歳ほどの子供達だ。
丸一日はかかるであろう。
全ては自分たちにかかっている。
時間を稼ぐと言っても限度がある。
自分達が安全だとさえ分かれば、あとはどうにでもできる者達だ。
鈴鹿御前は館に残った者達を気にしていた。

凪は颯太が盗んだ瓢箪が、自分たちの命を救ったことに驚いていた。
「まさかこんな事になるなんて…」
あの事件がなければ、今頃倭の兵に囲まれていたに違いない。
「ひょっとして…」
凪は一つの疑問を抱いていた。
その答えが閃いたような気がした。
『あの男は全てわかっていたのかも知れない!』
凪はそう感じていた。
颯太にわざと瓢箪を盗らせたような気がしていた。
颯太と真魚が出会った事実。
それは偶然ではない。
「ちょっともったいなかったかな…」
凪の頬がほんのり赤い。
「ほんと不思議な男…」
真魚の顔を思い浮かべて微笑んでいた。
嵐が空の上から子供達を見ている。
「さすがに子供の足では無理があるか…」
「俺が運んだ方が早いぞ…」
嵐が事実を言った。
「これは鈴鹿御前がやらねばならぬ…」
背中の真魚が言った。
「何故だ…」
嵐は納得がいかない。
時間がかかりすぎる。
それに、子供達の体力が心配だ。
「真魚、お主は鬼より怖いな…」
後鬼のことを言っているのではない。
嵐が真魚を責めている。
「同じ事が起こればまた逃げねばならぬ…」
真魚がそう言った。
「あの力を使いこなすまでは見ておきたい…」
真魚が嵐にそう言った。
「それでか…」
嵐がやっと納得する。
「結界を保ったまま動く術を得れば…次に備えられる…」
「子供の体力もそうだが、鈴鹿御前の霊力も同じだ…」
今回は真魚達が見守ることが出来る。
だが、次はそうは行かない。
真魚はその時の事まで考えていたのだ。
「だが、そんな長い間、奴らが倭の兵を食い止められるのか?」
嵐は後鬼達の事も気になっていた。
「夜まででいい…」
真魚がそう言った。
「それに、お主は気づいておったではないのか…」
真魚が嵐に確認する。
「殺すなと言ったことか?」
「そうだ」
嵐は気づいている。
「お主と言う男はどこまで…」
そこから先は言うのを止めた。
「まだ、時間はある…」
「それに、あの鈴鹿御前…なかなかのものだ…」
真魚が子供達を見てそう言った。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-