
「仕上げだ!」
真魚が地面に棒を立て、片膝をついた。
手刀印を組む。
七つの輪が出現し、輝き始める。
輪が回っていく。
その速度が上がるにつれ光が強くなっていく。
棒が輝く。
その光で棒が見えない。
その光が棒を中心にして広がった。
光の波紋が広がっていく。
その波紋が我夢に伝わる。
夢幻刀が振動する。
そして輝く。
まばゆき光が刀を隠す。
夢幻刀。
祈りの光で幻のごとく消える。
その光の中に刃が存在する。
我夢はそれをたたき込む。
かちん!
「ん!」
恭栄がそれを防げるのは、身体が動きを覚えているからだ。
反射的に反応している。
見えているからではない。
闇に心を奪われている恭栄に、その刃はもう見えない。
かん!
かち!
音が変わった。
「今だ!我夢!」
鉄斎が叫んだ。
うおおおおっ!
我夢はその一振りに全てを込めた。
かっ!
音がした。
刀が当たる音。
だが、完全に受けた音ではない。
我夢の足下に血が広がっていく。
「我夢!」
鉄斎は動こうとした。
「待て!」
真魚に抑えられた。
「き、恭栄…」
鉄斎が見たものは膝をつく恭栄の姿であった。
膝の前に腕が落ちている。
刀を持った恭栄の右手だ。
その刀が折れている。
龍牙が中程から無かった。
「強くなったな…坊主…」
恭栄が我夢を睨んでいる。
「とどめを刺さぬのか…」
恭栄が我夢を咎める。
「甘いな…」
「もう刀は握れまい」
我夢がそう言った。
腕がなくなった右肩を左手で押さえている。
流れ落ちる血は止まらない。
「いい夢を見た…」
そう言うと恭栄は立ち上がった。
そして、闇に向かって歩き始めた。
恭栄が振り返った。
笑っていた。
昔の笑顔であった。
それを見た鉄斎の目から涙が落ちた。
その口元が動いた。
鉄斎に向かって何かを言った。
それが恭栄の最後の言葉であった。
闇の霧が恭栄の身体を包むとその身体は塵になった。
残された腕も塵に変わった。
闇は消えた。
折れた龍牙だけが残されていた。
鉄斎には恭栄の最後の言葉が聞こえなかった。
「恭栄…これでよかったのか…」
鉄斎は泣いていた。
終わった。
苦しみが二つ、この世から消えた。
その一つは闇が食らって消えた。
「諦めおったか…」
嵐がその跡を見ていた。
ばたん!
我夢が倒れた。
意識がない。
「我夢!」
皆が慌てて駆け寄った。
我夢の腹に、折れた龍牙の切っ先が刺さっている。
彩音が我夢の手をにぎる。
「ああ!」
彩音が我夢を呼んだ。
「やっと、うちの出番やな!」
後鬼が理水を持って現れた。
我夢の頭を起こし理水を飲ませた。

「傷は深くはないが…」
前鬼がその傷を見ている。
真魚が龍牙の切っ先を抜いた。
彩音の手を掴んでその上に乗せた。
「彩音、祈れ」
真魚がそう言ってその場に座った。
目を瞑る。
真魚の光の輪が発動する。
彩音にも光の輪が見える。
真魚の輪が回転するとそれにつられて回り始めた。
真魚の身体が輝きだす。
『血で穢れた場だぞ…』
美しい声が真魚を咎める。
「力を借りるだけだ」
真魚はその声にそう答えた。
『お主と言う奴は…』
美しい声が呆れている。
真魚が回路を繋ぐ。
その生命を今度は彩音が受け取る。
彩音の手から生命が我夢に流れる。
「なんか、めんどくさくないか?」
嵐はそう感じている。
「お主には真魚殿の考えは理解出来ぬであろうな」
前鬼がじんわりと嵐をいたぶっている。
「何が違うのだ…」
嵐が考え込んでいる。
「彩音が鍵なのだ」
前鬼の答えを聞いても嵐には分からなかった。
「我夢は大丈夫なのか?」
鉄斎が前鬼に聞いた。
「見ていればわかる」
前鬼が心配している鉄斎の肩をたたいた。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-