我夢が夢幻刀を構えた。
「ほう」
男は我夢の構えを見てそう言った。
「大分、腕を上げた様だな…」
構えだけで我夢の力量を見抜いている。

「だが、今のお主では俺には勝てぬ」
男はそう言った。
だが、我夢はその言葉にとらわれない。
意識を刀に集中している。
間合いがある。
あと二歩は詰めなければ届かない。
届いたとしても傷は浅くなる。
「我夢とやら、なかなかやるではないか」 前鬼が感心している。
「剣術だけなら互角か…」
そう見ている。
「だけならな…」
真魚はそう言いながら口元に笑みを浮かべている。
鉄斎がようやく真魚達の近くまで来た。
「無間天昇流」
「一撃必殺の剣術だ…」
鉄斎がそう言った。
「なるほどな…」
その言葉に真魚は驚きもしなかった。
「あの間は敵を油断させる為の間だ…」
「間が消えた瞬間、人は天に還る…」
鉄斎がその極意を説明する。
「我夢は俺の棒術と戦った事がある」
「我夢の間はその間だ」
真魚が鉄斎に言った。
一歩踏み込んだ後の、突きを考えての二歩。
闇雲に取った間合いではなかった。
「これを見越して…」
鉄斎は驚いている。
「お主が我夢に剣術を教えなかった理由だ」
真魚は見抜いていた。
「一つは我夢に人を殺めて欲しくないと言う願いだ」
真魚はそう言いながら戦いから目をそらさない。
「もう一つは、我夢がどれだけ修行を積もうが、奴には勝てないという考えだ」
「そこまで…」
真魚の言葉に鉄斎は驚いている。
「それはあの男とお主の剣術が同じだと言うことだ」
真魚は鉄斎の闇を見抜いていた。
我夢に剣術を教えることは、我夢の死を意味する。
奴は我夢が強くなるまで待っていた。
それは絶望を見せる為だ。
希望を絶望に変えるのだ。
その闇を奴は食う。
正確には奴の後ろのものがそれを食う。
龍牙で人々を襲い続ける奴の目を見たとき、鉄斎は感じた。
もう人ではない。
「奴の心はもう救えなかった…」
鉄斎は目を伏せる。
「お主のせいではない」
「剣術が同じなら相打ちが妥当な所だ」
「お主の右腕がそう言っている」
真魚が言った。
奴の左目を奪ったのは紛れもない鉄斎であった。
右腕を犠牲にし、我夢と彩音を救ったのだ。
「そこまで見抜いておられるのか…」
鉄斎は真魚の洞察力に驚きを隠せない。
「人は理を越えることはできぬ…」
「だが、人は輝く術を持っている」
「お主が救った命…」
「今、こうして輝いているではないか」
真魚は鉄斎にそう言った。
「そうだ…」
鉄斎の目から涙が溢れた。
哀しいのではない。
それは安堵の涙であった。
元凶は自分が作ったのかも知れない。
そう思って来た。
重くのしかかっていた事実。
真魚の言葉で解き放たれたような気がした。
「その命がお主の輝きに変わる」
真魚がそう言った。
すると、我夢の身体が輝き始めた。
その波動が大気を揺らしている。
無幻刀が震えている。
我夢が刀を振り下ろした。
その瞬間男が下がった。
「うっ」
男の着物が裂けた。
「おのれ…」
男の顔つきが変わった。
目をつり上げ笑っている。
その言葉とは裏腹に、楽しんでいるかのようだ。
「嵐!」
真魚が叫んだ。
男の背後から黒い霧が現れた。
真魚が手刀印を組む。
真魚の棒に白い光が集まっていく。
「玄武!」
真魚が叫ぶ。
次の瞬間。
光の盾が彩音を守る。
盾が闇の矢をはじく。
「姑息な手を使いおって…」
嵐がその矢を食べている。
我夢も無事だ。
「俺の…楽しみを奪うな!」
男が怒っている。
闇の矢が男の意図でないことがわかる。
「危ない、危ない…」
後鬼は既に木の上に隠れていた。
「だいたい読めたな…」
「そうですな…」
真魚と前鬼の考えは同じであった。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-