桜の花びらが舞っていた。
花が風になって飛んでいく。
神社の境内の中を歩いている。
一の鳥居をくぐった所だ。
春の大祭であった。
神楽が奉納される。
華音がその神楽を演奏する。
当然、真魚が仕組んだものだ。

華音は朝早く起きて泉の水で身を清めた。
それから新しい着物に着替えた。
巫女のような服だ。
真魚もいつもの服ではない。
儀礼用の白い服を着ていた。
狩衣の様であるが白い。
「いつもの着物と言うわけにはいかぬからな」
真魚は慣れぬ着物に窮屈そうであった。
そのまま嵐の背中に乗り飛んできた。
「これは、やり過ぎではないのか?」
嵐が華音を心配している。
「人前で吹くのはなぁ…」
「都でも吹いたではないか」
「そうか!このための練習か!」
嵐の心配より先に真魚が手を回していた。
「多少は緊張するけど…」
確かに華音は緊張している。
「でも、やってみたい!」
「そう言うことだ」
真魚が笑っている。
「華音がそう言うなら俺は文句はない」
嵐の腹も決まったようだ。
「だが、奴らどうやって段取りしたのだ?」
嵐は前鬼と後鬼の仕事が気になる。
「馬鹿の一つ覚えが、いつまでも通用するとは思えんしな」
しかし、それが今回は通じた様だ。
「で、奴らはどこじゃ?」
前鬼と後鬼の行方が気になっていた。
「鬼さん達は近くにいるわ」
華音がそう言った。
「分かるのか、華音?」
嵐が驚いている。
嵐には分からものがこの娘には分かると言うことだ。
「真魚も分かるのか?」
嵐は一応聞いて見た。
「俺は鈴を持っているからな」
真魚はそう言ってごまかした。
「俺だけか!」
嵐は少し落ち込んでいた。
「その方が面白いではないか」
真魚はそう言って笑っている。
「私は嵐みたいに飛べないし、食べられないし…」
華音が笑った。
「それで褒めたつもりか…」
嵐はそう言ったが華音の心がうれしい。
そうしている内に目的の場所に着いた。
「宮司の使いでまいりました、こちらからどうぞ」
そこには禰宜と思われる者が待っていた。
真魚達はその後ろをついて行った。
そして、とある部屋に通された。
残念ながら嵐は外で待つことになった。
そこは祭祀に関わる者達の控えの場になっていた。
「宮司がこのことは内密にとおっしゃられていました」
「全てこちらでやらしてもらうが…」
「ご了承なさっております」
「それならばいい」
そのままその男はこの場を去った。
前鬼と後鬼の根回しが相当効いているようだ。
「宮司が神を畏れるとはな…」
真魚の口元に笑みが浮かぶ。
「神は恐ろしくないの?」
華音はその言葉を疑問に感じた。
「華音は嵐が怖いか?」
真魚が聞いた。
「そんなことない」
「同じ事だ」
真魚が笑っている。
「どんな力でも使い方次第だ」
「創造にも破壊にも変わる」
「それが神というものだ」
華音は真魚の話をじっと聞いている。
「人の心も同じようなものね」
華音がつぶやいた。
「そうだ、何が正しいのかは自分で決める以外にない」
「その世界を彩るための音がある」
「母はそう教えてくれた」
「この世界を創造している心が存在するのね」
「良きに転ぶか、悪しきに転ぶかはその心次第だ…」
「だが、それは誰が決めるわけでもないのだ」
真魚は遠き彼方を見ている様であった。
先ほどの男が近づいて来た。
「こちらからご案内いたします」
その男の後ろをついて祭祀が行われる場所に向かった。
何十人もの列の最後の方を歩いた。
「まさかあそこなの?」
はるか高きに処にそれはあった。
長い階段が空に上っていくようだ。
三本の束ねられた太い柱九本で支えられている。
その上に神殿があった。
「また、たいそうなものを創り上げたものだ」
真魚は笑っている。
「神のために創ったのではあるまい」
真魚はそう感じていた。
神は空にいるわけではない。
その空に向かってこれだけのものを創ったのだ。
誰のためか?
それは権力を持つものの為だ。
その権力を見せつけるためだ。
誰に…。
そこに生きる人々に…。
神が降りるにふさわしい場所は、清浄な空間と場である。
見かけや器は関係ない。
「何だか緊張する」
華音が真魚に言った。
「心配するな、どうにかなる」
真魚の言葉が華音には頼もしく感じる。
「あれ、鬼さん?」
華音が気づいた。
「奴らには場を清めてもらっている」
真魚が言った。
「だから変わったんだ…」
華音がその音に気づいていた。
「あと一人」
真魚がつぶやいた。
「何?」
「いや、こちらの話だ…」
真魚はその言葉を濁した。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-