空の宇珠 海の渦 第二話 その四 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話

 


 「やはり・・・」
 
 真魚は感じていた。

 『この共鳴共振はあの時と同じ・・・』

 ふと、後ろを振り向いた。

 祭壇に法具が見えた。 

  「まさか!」

  真魚は気づいた。

 「紅牙!この三鈷杵はお前の持っているものと同じか?」

 
 蔵王権現の祭壇の前。
 
 三躯の蔵王権現の前にそれぞれに同じ法具が祀られていた。

 
 真魚は紅牙に確認した。


 「そうだ!なぜそんなことが分かる?」
 
 紅牙は戦いながら答えた。


 「俺のも含めて全部で四つだ!」

 紅牙の答えを真魚は歓迎した。


 「それならば話が早い!」

 「嵐、前鬼これを持て!」

 そう言うと祭壇に祀られてあった三鈷杵を前鬼と嵐に投げた。

 
 嵐は口でくわえた。


 「持っているだけでよい!」
 
 そう言うと残りの一つを真魚が持った。


 持った瞬間、真魚は自分の考えが正しいことを確信した。

 「紅牙、嵐、前鬼、そいつの周りを囲んでくれ」


 「一体何をするつもりじゃ」

 後鬼が端の方でつぶやく。


 その三鈷杵には赤い宝珠が埋め込まれていた。

 
 真魚は三鈷杵を棒に近づけた。

 
 ブ~ンと振動する。

 
 「やはりそうか!」

 
 真魚は三鈷杵の宝珠の部分を棒に付けた。 
 
 
 棒が赤く輝きだした。
 
 
 三鈷杵を離すと、そこにはもう宝珠はなかった。
 
 
 真魚は三躯の蔵王権現の前に立った。
 
 
 そして、棒を右手で構え、左手で手刀印を結んだ。
 
 
 「オン・バキリュウ・ソワカ」

 
  真魚は蔵王権現の真言を唱えた。
 
 

 「真魚、お前まさか!」


  紅牙は真魚がやろうとしていることが分かっているらしい。
 
 

 その瞬間、三躯の蔵王権現が燃えた。

 

 その炎が真魚の棒に絡みつく。
 
 
 紅牙、嵐、前鬼の三鈷杵も燃えていた。
 
 

 三つの三鈷杵から溢れる炎が輪となってそのものを取り囲む。
 
 
 炎の輪がそのものの動きを止めていた。
 
 

 「我を守護する蔵王権現よ!その力、我に託せ!」
 

 呪を唱えると炎は更に燃えた。
 
 
 この世の炎ではない炎を纏い、蔵王権現を従えた姿。
 
 

 それは神そのものであった。
 


zaougongen3_530.jpg





 炎は巨大な鳥へと形を変えた。

  「征け!」

 真魚が棒を振り下ろすと、炎の鳥はそのものに向かって行った。

 

 ドォオオオオン!!!

 

 轟音を上げて炎が舞い上がる。
 
 
 動きを封じられたそのものは為す術もなかった。
 
 

 「す、すごい!」
 
 
 紅牙が息を飲む。
 


 炎に共鳴し三鈷杵が荒れ狂うように振動した。

 炎を纏った怪鳥は、更に勢いを増す。
 
 その口からは紅蓮の炎が吹き出され、禍々しいモノたちを縛り付けていた。
 

 「これを持つ方の身のことも考えてくれんかなぁ」

 
  三鈷杵を持っている前鬼がぼやく。

 
 「真魚、覚えておれよ!」

 嵐は口に三鈷杵を咥えながら、必死に耐えていた。

 
 だが、真魚は笑っていた。

 
 不敵な笑みを浮かべ、ただ笑っていた。

 
 更に真魚は青龍を呼び出した。

 
 碧い光が真魚を包んでいく。

 

 「な、何じゃ!せ、青龍の力が!」

 後鬼は端の方で震えていた。

 

 青龍の溢れるエネルギーの量が以前と違う。

 倍になったと言っても過言ではない。

 

 「もし、あの炎で自分が焼かれたら・・・。 もし、あの青龍に飲み込まれたら・・・。
 
 そんなことを考えていたのかも知れない。


  「予定通りだ!」

 真魚はそう言うと青龍を放った。

「征け!」

 勢いを増した炎に碧い光となって飛び込んでいった。
 
 

 ぐぉおおおおお~

 

 そのものは悲鳴とも叫びともつかぬうなり声を上げた。

 舞い上がる炎を青龍のエネルギーが浄化していく。

 やがてそれらは灰となり砕け散った。

 
 
 何もない空間を見つめる時が過ぎる。

 

 どれくらいの時間が過ぎたのか。



 「終わったな」


  紅牙が言った。

 
  「ああ」

 
  真魚が答えた。

 
 「こら!真魚のアホンダラ!」


  嵐が真魚に向かって言った。

 
 「何だ」
 
 真魚が答える。 

 
 「あのなぁ、あの炎はもの凄くやばいぞ!」
 
 嵐は真剣に怒っていた。

 「俺は肉体が消滅するかと思ったぞ!」


 「生きておるではないか」

  真魚は事実を言った。

 
 「結果が良ければ良いというものではない!」
 
 「少しは持つ方のことも考えてもらわんと、身が持たん!」

 嵐の怒りは収まらない。

 
 「では、どうすればよかったのだ」
 
 真魚は嵐にやんわりと言った。

 「それはだなぁ~」

  嵐は困った。

 
  「それは?」


  真魚が追い詰める。

 「もうよい!次からは頼むぞ!」

  そう言って嵐は尻を向けた。

  皆は笑っていた。

 
  嵐は真魚のことを少し見直した。


  畏さえも持ち始めていた。

  
  神を使いこなせる選ばれし者かも知れない。 


  そう感じずにはいられない事実が存在した。
 

 

 「面白いものを見せてもらったよ」
 
 入り口に人影が見えた。

 「老師!」

 紅牙はその老人のことをそう呼んだ。

 「じいさんか」
 
 真魚も知っているらしい。


 「真魚よ、お主らが派手にやるのはいいが、その法具はもう使い物になるまい」

 老師は紅牙達が持っている法具を見て言った。


 突然、真魚が膝をついた。

 「真魚!」

 
 紅牙が真魚に駆け寄った。

 
 ポタッ。

 
 真魚の下に赤い染みが広がった。

 
 真魚の鼻から大量の血がしたたり落ちた。



  「大丈夫・・・だ」
 
 その言葉を残して真魚は意識を失った。


 「やれやれ、まだまだ修行が足りんようじゃな」

 
 老師はそう言った。

 
 しかし、本心はそうではなかった。

 
 無名の沙門がこれほどの術を使いこなせることに、驚異を感じていた。

 「紅牙、真魚を休ませてやれ」

 

 老師はそう言うと、本尊の蔵王権現を見た。

  憤怒の顔が一瞬ゆるんだ様に見えた。



  「光が来ましたな、小角様・・・」

 老師は心の中で役小角にそう語りかけた。
 

rousi_530.jpg




 いまだ頭上で荒れ狂っている禍々しい怪鳥。

 真魚たちを守護している青龍。

 それらは互いに赤と黒の炎を吹きながら牽制しあっている。

 真魚のやるべきことはまだ残されたままであった。




真魚は一晩中目覚めることはなかった。

 明け方、日が昇ると目が覚めた。

  同時に異変に気がついた。
 

 『大気がざわついている』 


 急いで外に出た。

 召喚した炎の怪鳥朱雀と青龍が互いに牽制しながら空を占領していた。

 「しまった・・・」
 
 真魚は呼び出した青龍と朱雀をそのままに気を失ってしまったのだ。
 
 互いのエネルギーを使い果たし朱雀と青龍は抜け殻のようになっていた。
 
seiryu_suzaku2_530.jpg



  真魚は急いで棒を捜した。

  「そうか、昨日のままか・・・」
 
  気を失った時にその場に置いたままであった。

  「俺以外に動かせぬか・・・。」
 
  真魚は直ぐに蔵王堂に向かった。

  棒は直ぐに見つかった。

   急いで棒を持つ。
 
   印を組み呪を唱えた。

  朱雀と青龍は赤と青の光の粒となり棒に吸い込まれた。
 
 
  その瞬間、棒は赤と青のまぶしい光を放ち振動した。
 
  そして、更に重くなった。
 
  真魚は思わず膝をつきそうになった。
 

  「やれやれ・・・」
 

  真魚は不適な笑みを浮かべた。
 
 
 




  真魚は境内を散策していた。
 
  寺院の朝は早い。
 
  既に修行の者が掃除を始めていた。
 
  朝日が心地良かった。

   「小角の思い・・・」
 
  役小角は何をしたかったのか。
 
  歩きながら真魚は考えていた。 
 
  微かに残る念の波動から情報を整理していく。
 
  真魚の意識にそれが映像となって再生されていく。
 
 
  「もう大丈夫な様だな」
 
  「青龍と朱雀もほっとしているな」
 
  紅牙が姿を見せた。
 

  「嫌みか」
 
  真魚は笑った。


 「それにしても驚いたぞ」
 
 紅牙が昨日の出来事をそう言った。

  真魚は微笑んでいた。
 

 「まさか蔵王権現を召喚するとはな」
 
 紅牙は真魚に向かって言った。
 

 「そうしろと言ったのはお前だろ」
 
 真魚は紅牙に責任をなすりつける。


  「まぁ、解釈の違いやな」

  「そして、あれだけの事をして、今ここに立っていられるんだな、お前は…」
 
 紅牙は笑った。
 

  「それに・・・」

  「あの棒は何だ」
 
 「お前が気を失ってから運ぼうとしたが、どうにもならんかった。」
 


 「力ではあの棒は持てない、コツがある」

 「お前ならわかるだろう?」

  真魚が答える。


 「お前はあれを担いでこの山を登ってきたのか?」
 
 紅牙は真魚に尋ねた。

  「そうだ」
 
  真魚は素っ気なく答える。

 
  「決めたのだな」

  紅牙はそう表現した。

 
 「決めた。」
 
 真魚はそう答えた。

 
 紅牙は真魚を見た。

 「覚悟ができたのだな」
 

 『本当にお前という奴は・・・』

 真魚は空を見ていた。
 
 青い空に浮かぶ雲が形を変えながら浮かんでいた。
 
 「雲には形があるが、とどまることはない」
 「俺も同じだ」
 
 
 真魚は空の雲をを見つめながらそう言った。

 朝の陽が真魚を包む。
 
 男の顔がそこにあった。


ketui3_530.jpg



 真魚は紅牙と共に歩いていた。

 書院に向かう途中であった。


 そこに子犬の嵐が駆け寄ってきた。
 
  「新しい事実が判明した」
 
 子犬の嵐は不機嫌であった。
 

  「何がだ」

 真魚は素っ気ない。
 

  「お主が気を失うとだな、俺も子犬に戻ってしまうという事実だ。」

 嵐は残念そうだ。
 

  「当たり前だろ」
 
 真魚は何を今更と言いたげだ。


  「では、お主と俺は運命共同体ではないか!」
 
 嵐は真魚に不満をぶつけた。


 「いけないのか」

 真魚は言う。
 

  「だったら俺は、お主から永遠に離れられないのか?」
 
 嵐は不満げだ。
 

 「そうとは限らん、今はそうというだけだ。」
 
 真魚はあっさり言う。


  「・・・」
 
 嵐は黙り込んだ。


 紅牙は笑っていた。

 
 「青嵐をさがすことだ」
 
 真魚は嵐に道を示した。
 

 「あ、兄者か?」
 
 嵐は驚いた。
 

 「お主達は元は一つであったのであろう?」
 
 真魚は導くように嵐に問う。
 

  「…、…。…!」

  「そ、そうか!兄者か!」

 嵐は納得したようだ。


 「そ~か~兄者か~♪」

 嵐の機嫌が直ったようだ。



 飛び跳ねてどこかに行ってしまった。
 


 「お前は面白い奴だな」
 
 一部始終を見ていた紅牙が、笑いながら言った。

 
 「俺は面白くない」

 「見ているお主が面白いと思っただけであろう」
 
 真魚が事実を言った。
 

 「それもそうだ!」

 紅牙はそんな自分に笑った。


続く…

-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
    実在の人物・団体とは一切関係ありません-