今月のお題は『お一人様の時間の過ごし方』です。
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情景はいつも朝の台所から始まる。
じゃがいもの皮をむく。若芽の塩を抜いて刻む。お出汁やご飯の炊ける匂いが満ち満ちて、グリルでは鮭がじゅぅぅと脂を滴らせている。冷蔵庫の糠床から取り出したお茄子はぷっくり肥えて、朝の光にぴかぴかと輝く。エプロンは小花が散った洗い立ての白で、包丁の柄は綺麗な白木。明るい窓辺には小さな透明ガラスの一輪挿し。コスモスの花が2本、まぶしそうに咲いている。
朝食の用意が整うと、いそいそと旦那さまを起こしに行く。
「あなた、朝ごはんができたわよ」
彼は、布団の中で「んー……」と唸ったきり、むこうを向いたまま。「ごはんできたわよ。遅刻しちゃうわよ」
「うーん」ともう一度唸りながら伸びをして、こちらに寝返りをうちざま、夫はガバリと新妻の体を捕らえる。
私は彼の腕の中で、その甘い余韻にひたりながら、深い眠りにつくのだ。
味噌汁の具がお揚げと長ネギになったり、なめことお豆腐になったりと、メニューは日々若干変わるけれど、中高生の頃、よくこんなことを毎晩考えながら床についていた。翌日も情景は必ず朝の同じ時間からスタートする。ゆえに、何度も抱きしめられているのにも関わらず、私は「旦那サマ」の顔を一度も見たことはなかったし、せっかく時間をかけて作った朝食を食べるところまで、一度も行き着いた試しがない。
私には昔から中途半端に現実的な恋愛夢想癖があるのだ。
苦手な数学の授業中は、プール学習中に当時憧れていた他校の彼がなぜか頻繁にプールサイドに現れたし、退屈だった教育学の講義中には、キャンパスの中庭の芝生で大好きな先輩に膝枕をしながら苺を食べている自分の姿がはっきりと見えた。
これを一度始めると、意識どころか時間の感覚もすっかりなくなってしまう。よって現実世界で実際に教師に指名された時など、椅子から飛び上がるやらずり落ちるやら、とんでもないことを口走り始めるやらと、目も当てられない惨状になる。下駄箱にひっそりと入っていた手紙を読んで、動揺しつつ校門を出ると、待ち伏せしていた彼がいた。ああ、私はどんな顔をしたらよいのだろう……と、表情筋をゆがませながら必死に思案中の女に、どうして突然三角関数など解けようか。
結婚しても母になってもこの性癖は健在だ。
邪魔者がいない砂金のように貴重なひとり時間など、まるで夢想パラダイス!時間なんて簡単に吹っ飛んで行ってしまう至福の時。
こうして、夫がその存在に気がつかないうちに妻のパンドラの箱は一つ、また一つと増えていくのである。
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You think what? は読者投稿のコーナーです。
こちらから投稿出来ますので、あなたの意見もぜひ聞かせてください。
お待ちしています!!
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情景はいつも朝の台所から始まる。
じゃがいもの皮をむく。若芽の塩を抜いて刻む。お出汁やご飯の炊ける匂いが満ち満ちて、グリルでは鮭がじゅぅぅと脂を滴らせている。冷蔵庫の糠床から取り出したお茄子はぷっくり肥えて、朝の光にぴかぴかと輝く。エプロンは小花が散った洗い立ての白で、包丁の柄は綺麗な白木。明るい窓辺には小さな透明ガラスの一輪挿し。コスモスの花が2本、まぶしそうに咲いている。
朝食の用意が整うと、いそいそと旦那さまを起こしに行く。
「あなた、朝ごはんができたわよ」
彼は、布団の中で「んー……」と唸ったきり、むこうを向いたまま。「ごはんできたわよ。遅刻しちゃうわよ」
「うーん」ともう一度唸りながら伸びをして、こちらに寝返りをうちざま、夫はガバリと新妻の体を捕らえる。
私は彼の腕の中で、その甘い余韻にひたりながら、深い眠りにつくのだ。
味噌汁の具がお揚げと長ネギになったり、なめことお豆腐になったりと、メニューは日々若干変わるけれど、中高生の頃、よくこんなことを毎晩考えながら床についていた。翌日も情景は必ず朝の同じ時間からスタートする。ゆえに、何度も抱きしめられているのにも関わらず、私は「旦那サマ」の顔を一度も見たことはなかったし、せっかく時間をかけて作った朝食を食べるところまで、一度も行き着いた試しがない。
私には昔から中途半端に現実的な恋愛夢想癖があるのだ。
苦手な数学の授業中は、プール学習中に当時憧れていた他校の彼がなぜか頻繁にプールサイドに現れたし、退屈だった教育学の講義中には、キャンパスの中庭の芝生で大好きな先輩に膝枕をしながら苺を食べている自分の姿がはっきりと見えた。
これを一度始めると、意識どころか時間の感覚もすっかりなくなってしまう。よって現実世界で実際に教師に指名された時など、椅子から飛び上がるやらずり落ちるやら、とんでもないことを口走り始めるやらと、目も当てられない惨状になる。下駄箱にひっそりと入っていた手紙を読んで、動揺しつつ校門を出ると、待ち伏せしていた彼がいた。ああ、私はどんな顔をしたらよいのだろう……と、表情筋をゆがませながら必死に思案中の女に、どうして突然三角関数など解けようか。
結婚しても母になってもこの性癖は健在だ。
邪魔者がいない砂金のように貴重なひとり時間など、まるで夢想パラダイス!時間なんて簡単に吹っ飛んで行ってしまう至福の時。
こうして、夫がその存在に気がつかないうちに妻のパンドラの箱は一つ、また一つと増えていくのである。
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