前回のつづきは以下から読めます。(※別窓が開きます)
第一話
第二話
第三話
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行くあてなどなかった。
耳の奥がクラクラする。浮き上がっては頭の中で旋回し続ける弘幸の言葉。
あの時、携帯の向こうで酔った弘幸の声は、半ば自暴自棄にも聞こえた。沙弓は必死に冷静になろうと、笑い声さえ含ませながら電話を切ったのだ。優実の目もあった。
でも、どうして……。沙弓と婚約までしている弘幸が、なぜこんな事になったのだろう。
弘幸はいつも用意周到だった。
結婚の準備も着々と進み、この結婚によって一年以内には昇格も決まっていた彼が、そんなミスをするなんてありえない。もちろん、愛情も充分なほど介在していたはずなのに。なぜ今になって、弘幸の口から瑞穂さんの名前がこぼれたのだろう。
舞い散る雪の欠片を避けて、フラフラとアーケードの中に入る。
並べられたたくさんのスノーキャンドルの氷は大分くぼみを増し、中にはそろそろ消えかけているものもある。
……そうだ。あそこに行こう。
瑞穂は会社の先輩だった。
真っ直ぐな長い髪をきちんと束ね、いつもカッチリとしたスーツを身にまとった彼女は、凛とした雰囲気を放ち、姿勢が良かった。仕事の出来るキャリアウーマンそのもので、総合職についている女子社員の憧れの存在だった。30代になったばかりなのに、昇進の声がかかっているという噂もあった。
その彼女が、去年の冬に突然退職した。
理由は誰にも詳しく告げず、送別会さえ断って姿を消した。
その不可解さに、周囲では色々な憶測が飛び交っていたほどだ。
アーケードの端にひっそりと建つ一軒のホテルがある。
最上階には街の景色を一望できるトップラウンジがある。
会社の飲み会の二次会で、そのラウンジに連れて行かれた沙弓は、スポットライトを受けて浮かび上がっているピアノの演奏が始まるや否や、酔った上司からチークダンスを強要されて辟易していた。
息を止めながら一曲踊り、トイレに逃げ込んだ沙弓の後からそっと入ってきた瑞穂が、「上司にうまく言ってくるから、一緒に抜け出しましょう」と、窮地を救ってくれたのだ。
……つづく
第一話
第二話
第三話
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行くあてなどなかった。
耳の奥がクラクラする。浮き上がっては頭の中で旋回し続ける弘幸の言葉。
あの時、携帯の向こうで酔った弘幸の声は、半ば自暴自棄にも聞こえた。沙弓は必死に冷静になろうと、笑い声さえ含ませながら電話を切ったのだ。優実の目もあった。
でも、どうして……。沙弓と婚約までしている弘幸が、なぜこんな事になったのだろう。
弘幸はいつも用意周到だった。
結婚の準備も着々と進み、この結婚によって一年以内には昇格も決まっていた彼が、そんなミスをするなんてありえない。もちろん、愛情も充分なほど介在していたはずなのに。なぜ今になって、弘幸の口から瑞穂さんの名前がこぼれたのだろう。
舞い散る雪の欠片を避けて、フラフラとアーケードの中に入る。
並べられたたくさんのスノーキャンドルの氷は大分くぼみを増し、中にはそろそろ消えかけているものもある。
……そうだ。あそこに行こう。
瑞穂は会社の先輩だった。
真っ直ぐな長い髪をきちんと束ね、いつもカッチリとしたスーツを身にまとった彼女は、凛とした雰囲気を放ち、姿勢が良かった。仕事の出来るキャリアウーマンそのもので、総合職についている女子社員の憧れの存在だった。30代になったばかりなのに、昇進の声がかかっているという噂もあった。
その彼女が、去年の冬に突然退職した。
理由は誰にも詳しく告げず、送別会さえ断って姿を消した。
その不可解さに、周囲では色々な憶測が飛び交っていたほどだ。
アーケードの端にひっそりと建つ一軒のホテルがある。
最上階には街の景色を一望できるトップラウンジがある。
会社の飲み会の二次会で、そのラウンジに連れて行かれた沙弓は、スポットライトを受けて浮かび上がっているピアノの演奏が始まるや否や、酔った上司からチークダンスを強要されて辟易していた。
息を止めながら一曲踊り、トイレに逃げ込んだ沙弓の後からそっと入ってきた瑞穂が、「上司にうまく言ってくるから、一緒に抜け出しましょう」と、窮地を救ってくれたのだ。
……つづく