時に、自分は「死」をどのように迎えたいだろう……なんて、ちょっぴり重たいテーマを考えてしまうことがある。

家族や孫や、愛する人達に見守られ、一人一人に感謝の言葉を述べた後、静かに穏やかに旅立つことが出来れば最高だろう。
けれど、もし自分が天涯孤独の身の上になっていたとしたら、私は間違いなくあの神秘的な湖を死に場所に選ぶと思う。

ジェリーフィッシュレイク


世界一ともうたわれる抜群の透明度を誇る海に囲まれた美しい楽園、パラオにある、小さな湖だ。
その名の通り、無数のジェリーフィッシュ=クラゲが生息する。

クラゲといっても、この湖に生息するクラゲは人を刺さない。
地殻変動によって四方が隆起した塩水湖の中で、外敵から身を守る必要がなくなった彼らは、長い時間をかけてその身から毒を放棄していったのだ。

小さな船に乗り、島に着く。
ゴツゴツした足場の悪い勾配の急な岩場を登り、そして下ると、突如、静寂に満ちたマリンレイクが目の前に現われる。

柔らかい水にそっと潜る。
どんなに目を凝らしても湖の底は、柔らかな深い霧に包まれていて何も見えない。
そこには、太古の昔からこの湖で生まれ、そして死んでいった無数のクラゲの死骸が堆積しているという。
水中から湖面に目を移すと、太陽の光線に添って半透明のエメラルドグリーンが静かに揺らめき、ゆらゆらと数え切れないほどのクラゲが浮遊している。

この湖の中では、音も時間の流れも何もかもがまるでゼリーに包まれたように静止し、ただクラゲの生と死だけが延々と繰り返されてきたのだ。

虹が消えてしまった直後の雨上がりの午後や、雪の声が高く響く冬の夜、一人で過ごしているふとした瞬間に、心の底から漂い出てくることがある。
ここに取り残されたまま、水底に積もるクラゲの上に自分の身を横たえ、そして埋もれてしまいたいとさえ切望させた、あの小さな湖の、美しく神秘的な光景が。

Written by MOMO ORIBE