コートのポケットに入っていた携帯電話が微かに震えたのは、ちょうど沙弓が浮玉に見とれているときだった。
群青色の空を映した黒い運河に浮かんだ、幾百もの硝子の玉。中に灯されたやわらかいキャンドルの光はゆらゆらと反射して、まるで漆黒のビロードに散りばめられたトパーズのように運河を彩る。そして、真っ白く大きな雪のかけらが、ふうわりふうわりと水面に吸い込まれていく。
5年ぶりに再会した優実は、その光景を目にした瞬間に感嘆の声をあげた
北国に住んだことのない彼女を、一番寒いこの時期を選んでわざわざ呼び寄せてよかったと、沙弓は、目を輝かせながら身動き一つせずに運河を見つめ続けている優実の横顔をちらりと見ては、思った。
「雪明りの路」
数ある北国の催し物の中で、沙弓はこのイベントが一番好きだ。
小さな港町はその期間、雪や氷で作られた手づくりの大きなホルダー1つ1つの中にキャンドルが灯され、街のあちこちに星屑が散りばめられたようになる。
今は使われていない線路の上に積もるふかふかの雪を踏みしめながら、数え切れないほどの光の中を歩くたびに、沙弓はこの古い町に生まれ育ったことを誇りに思う。
指先に伝わる震えはまだ続いている。
小さくため息をつきながら着信画面を見ると、彼の名前が白く光る画面に浮き出ていた。
・・・つづく
群青色の空を映した黒い運河に浮かんだ、幾百もの硝子の玉。中に灯されたやわらかいキャンドルの光はゆらゆらと反射して、まるで漆黒のビロードに散りばめられたトパーズのように運河を彩る。そして、真っ白く大きな雪のかけらが、ふうわりふうわりと水面に吸い込まれていく。
5年ぶりに再会した優実は、その光景を目にした瞬間に感嘆の声をあげた
北国に住んだことのない彼女を、一番寒いこの時期を選んでわざわざ呼び寄せてよかったと、沙弓は、目を輝かせながら身動き一つせずに運河を見つめ続けている優実の横顔をちらりと見ては、思った。
「雪明りの路」
数ある北国の催し物の中で、沙弓はこのイベントが一番好きだ。
小さな港町はその期間、雪や氷で作られた手づくりの大きなホルダー1つ1つの中にキャンドルが灯され、街のあちこちに星屑が散りばめられたようになる。
今は使われていない線路の上に積もるふかふかの雪を踏みしめながら、数え切れないほどの光の中を歩くたびに、沙弓はこの古い町に生まれ育ったことを誇りに思う。
指先に伝わる震えはまだ続いている。
小さくため息をつきながら着信画面を見ると、彼の名前が白く光る画面に浮き出ていた。
・・・つづく