コロナ前の出来事でございます。
当時私は盲導犬育成に
携わっていて、
盲導犬候補生とともに
色々な場所に足を向けたり
顔を出したりしていたのですが、
そんなある日某所で
男の子二人連れに声をかけられ
「すみません!わんちゃん
撫でていいですか!」
「それが駄目なんですよ!」
「えっ!どいうして!僕、
犬には懐かれるんですよ!」
そう言って来た男の子は
私が『訓練中の盲導犬候補生を
撫でてはいけない理由』を
説明すると
素直に納得してくれて、
それでまあこの子が
滅茶苦茶人懐っこくて、結果
なし崩し的に立ち話が始まり
5分もすると私はこの子が
南欧系の留学生で現在
スコットランドの大学に
通っていることや
身内が日本で働いているため
日本文化に興味があること、
犬が大好きであること、
太りやすいから夜は
ゴハンを抜いてジムに
通っていることなどを知り
・・・学生さん、君、
個人情報を初対面の人に
迂闊に開示するのは危険、と
大学入学前に教わらなかった?
とにかくお喋り好きな子でした。
一方彼の連れである
もう一人の男の子は非常に
物静かで口数少なく
南欧君が代わって
彼の紹介をしてくれて
「こいつはね、英国人だけど
ルーツは東、東欧なんですよ」
「俺たち大学で知り合ったんです」
「ジムにも一緒に行く仲です、
でもこいつは夜にゴハンを
食べるんですよね、
俺は食べないのに、なんか
太らない体質なんですって」
そう言われてよく見てみると
確かに東欧君は身体全体に
筋肉はついているものの
頬なんかは少しこけた感じで、
なんていうんですか
往年のジェームス・ディーンの
目つきを鋭くした感じ・・・?
笑い方も南欧君が
身体全体を揺らして
アッハッハと屈託なく
笑い声を響かせるのに対して
東欧君はちょっと照れたように
頬を緩めて口角を
あげるだけ、みたいな。
さてそんなこんなで
私はその後も何度か
彼らと会うことがあって
そのたびに南欧君の
体重の増減ですとか
最新のおすすめ学生向け
パブ情報ですとかを聞き、
で、ある時東欧君が
何かの話のついでに
非常にさりげなく
「僕は東欧系英国人ですが、
実は父親が日本人なんです」
「あらそうなんですか。
日本語が話せたりしますか?」
「それが全然。父とも
英語で話をするので・・・
コンニチハくらいです」
横から南欧君が
「僕もコンニチハは話せます!
コンニチハ!ドーモドーモ!」
しかしお父様が日本人なのに
自身を『東欧系』と認識するのは
面白いな、母系社会というか
お母様側のご親族との
関係が強い感じなのかな、と
思いつつそこから
さらに日がたったある日。
また彼らと立ち話を
しておりましたら南欧君が
東欧君のほうをちらりと見て
目で何かの合図をしてから
「NorizoさんNorizoさん、僕
日本文化について質問があって」
「はあ、何でしょう」
「Norizoさんって英国の人と
結婚しているんですよね。
あの・・・失礼かも
しれないんですが、それ、
ご家族の方は誰も
反対しなかったんですか。
つまり日本人にとって
国際結婚ってその・・・
祝福されるものなんでしょうか、
ごめんなさい、僕は別に
失礼なことを
聞きたいんじゃなくて・・・」
「いや大丈夫、そうだね、
私の場合は家族は
誰も反対しなかったよ、
祖母は最後の瞬間まで
破談を狙っていた説もあるけど
それは国際結婚が嫌というより
私が遠くに行くことが
嫌だったんだと思う、でも
祖母は頭のいい人だったから
迂闊に私の結婚に反対したら
周囲から非難されると
わかっていたところも
あったでしょう、
そういう意味では
『外国人と結婚なんて』
みたいなことを
表立って言うのは
あまりいいことではない、
というのが現在の
日本の主流の考え方・・・
でもこれは家庭や地域にも
よるかな、私の一世代前だと
それこそ外国人と結婚したら
実家を勘当された、みたいな
話だってあったし、
私も実例を知っているよ」
「やっぱり勘当とかそういう
話になる場合もあるんですね」
「うんそれはね・・・
その手の話はでも
世界中であるでしょ」
「ありますよね、わかります」
「で、何かね、君は今
日本人の女の子と
付き合ったりしているのかね」
「いやこれはそういう
質問じゃなくてですね!」
その時東欧君が口を開いて
「僕の父の両親は
父が僕の母と結婚することを
許せなかったと聞いています」
「君のお父様はたぶん
私と同世代か・・・
うん、だからそういうことも
起きる時は起きるよね、
いやこれは君のご両親の
結婚問題を軽くとらえての
発言ではないんですけど」
「大丈夫です、そうです、
これはよくある話です、
それでまたよくある話だと
夫婦に子供が生まれると
孫可愛さに祖父母が
折れるじゃないですか」
「うんうん!」
「僕のところは駄目でした。
僕が生まれたことによって
事態はもっと悪化しました。
日本にいる僕の祖父母にとって
僕は恥の子なんです」
東欧君はそう言って
にっこりと微笑み
(東欧君の顔立ちが
非常に整っているせいもあり
これは壮絶に美しい笑顔でした)、
私はこの場合何をどう
言うべきなのか判断できず
言葉に詰まり、そんな場を
救ってくれたのが南欧君で
「いや俺はね、俺はこいつに
そういう考え方は違うって
言っているんですよ、
だってそれ、こいつには
責任のない話でしょ?
でね、俺は思うんですけど、
こいつの日本のおじーさんや
おばーさんだって
こいつが嫌いでそんなことを
しているんじゃないんですよ、
好き嫌いじゃないんですよ、
さっきNorizoさんも
言ったでしょ、
世代とか地域とかが絡む
考え方の問題なわけですよ、
こいつがどうこうとか
そういう話じゃないんですよ!」
その時私は思いました、
東欧君の日本の身内が
どういう人たちなのか
何を考えているのか
ここまで何があったのか
私にはわからない、
東欧君はもしかすると
家族運が悪いのかもしれない、
でもこの子には間違いなく
友達運がある、この子は
友達に恵まれておる、と。
東欧君の心の傷というか
屈折はたぶん私の想像が
及ばない程の深さなのだと思う、
でも彼がこうやって
そうしたことを周囲に
吐き出せる、というのは
一種の回復の
過程なのではないか、と。
よかったな東欧君、
こんな前向きで朗らかな
南欧君と大学で
出会うことができて!
その時の私は
南欧君の楽観主義の
目指すところに
気がつけていなかったのです・・・
続く。
今回の話、
南欧君と東欧君と
私の関係性などに少々
脚色アリでございます
よろしくお願いします
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