貧しく小さな小国の、兄弟の物語。



王子の名は、カイヤ。
母の違う兄の名は、リウム。
血の混じりからリウムに王位継承権はないが
幼き頃から仲睦まじく何をするにも一緒だった。
軍師であるメーレイにともに武学を学び
国を守る術を吸収して大きくなった。
王は王子を守る側近としてリウムを育てた。
時が経ち、王子が王として座した少しあと
兄であるリウムは城を出て旅に出る。



旅を終えて帰国したリウムは、
外の国の素晴らしさをカイヤに伝えた。
色鮮やかな衣装に身を包んだ人々が舞い踊り
見たこともない食物が並んでいる国の話。
民の幸せのために革命が必要であること、
豊かな水のある地へ移国をすることなど
熱を帯びた目でカイヤに賛同を求めた。
国を想い、民を想い、
カイヤを愛するリウムの中に
疑いはなかった。



・・・カイヤは、兄を幽閉した。



国の存続を脅かす危険分子として
リウムの声を聞こうとするものを
命までは奪わぬものの
圧倒的な権威を持って押さえつけた。



幽閉はいく年にもわたり
かろうじて与えられた
わずかな水と食物で生きながらえるも
自慢の金髪は真っ白になり
若く美しかった長身のリウムは
落ちぶれた老人のようになっていった。



新しい王がまだ王子だった頃から
貧しさによる民衆の不安は限界に近く
いつ爆発しても良い緊迫した状況だったので
リウムは国を救うには国を捨てるしかないと
カイヤに伝えたのだ。



カイヤは、
リウムが王座を狙っているのだと思った。
現に不穏な空気も感じ続けていた。



実際リウムは、
自分こそが王に相応しいと思っていた。
剣術の腕はいつも自分が上だったし
おっとりしたカイヤは戦いを嫌った。
おまけにカイヤは吃音をもっていて
たどたどしい喋り方をする。
王は完璧でなければいけないのに
恥ずかしいやつだなと
リウムはカイヤを見下していた。
王と側近という肩書きのない場所では
幼い頃のまま同じものを見て笑いあえたし
弟としてなら深く愛していたのだが
王としてはカイヤを認めることができなかった。



カイヤがリウムを幽閉した理由は
王座を守ることの他にもうひとつあった。
と言うよりそれがほとんどをしめていただろう。



旅から帰国したリウムが
王妃であるカイヤの妻を抱いたのだ。



美しいリウムに心奪われ
夫を愛せなくなった妻の
涙ながらの告白により知った。
リウムに執拗に口説かれ
どうしようもなかったのだと
深く詫びてカイヤを抱きしめた。
カイヤは妻を許したが
兄を許すことができなかった。



旅から帰国してすぐ
街で逢った名も知らない女と
一夜をともにしただけのリウムは
何も知らない・・・。



リウムが幽閉されてから
何度目かの春を迎えるころ
いよいよ国の危機が訪れた。
王への不満を抱えるものたちが
組織のリーダーとして
リウムに白羽の矢をたてた。
民衆を動かすカリスマ性が必要だった。



組織のものたちは
幽閉先に何度も密書を届け
カイヤ王の無能っぷりを
さも誠であるかのようにリウムに伝えた。



リウムはカイヤの変わりように悲しみ、
やはり王になるのは自分しかいないのだと
弟であるカイヤを救うためにも
立ち上がることを決めた。



幽閉先のリウムに
カイヤが王として
民に心尽くしていたことを
隠すのは容易だった。



用意は周到に行われた。
民衆の間でもリーダー誕生の噂が
こっそりと確実に知れ渡っていった。



リウムは立ち上がり
持って生まれたカリスマ性で
民を煽動し豊かな水の国を目指した。



二人を育てた軍師のメーレイは
行ってはいけないとリウムを止めた
リウムは彼の手を振り払い
王の軍との戦いに夢中になった
若かった彼の情熱を奪った幽閉。
培われた怒りのエネルギーは
戦うには十分すぎるほどだった。



メーレイは心の奥で深く嘆いた。
カイヤとリウムの仲を戻すことを
カイヤに嘆願していたからだ。
二人の葛藤は、欲にねじまげられ
戦いという最悪の形になって現れた。



結果はメーレイの忠告通り
王の軍の圧勝で
豊かな水の国を見ることもなく
リウムは戦いの中に命を落とした。



美しいものが好きだったリウム。
王の軍の中にも友がいた。
友と友が戦い傷つき死んでいく様に
招いた現実を受け入れることができなくなり
半ば望んで、戦火の中に身を投じたのだ。



軍師メーレイは最後まで
王の軍も民の軍も誰ひとり殺さず
戦いをやめよと叫び続けた。
その声は届かず彼もまた命を落とした。



リウムに人知れず恋をしていた
美しい少年マーランは
リウムの盾になり死んだ。本望だった。



牧師をしていたキーニャは
豊かな水の国が見たいという妻子のために
リウムに続き国をあとにしたが
あっけなく妻子を殺され、呆然と立ち尽くした。



ルルは生まれたばかりの赤ん坊を抱え
戦火の中を逃げまどったていたが
殺されるぐらいならせめて自らの手で、と
襲われる寸前に赤ん坊の首をしめて殺した。
股を開いたルルは命を得たが
代わりに心を失ってしまった。



赤ん坊の名はまだ無かった。
母に殺された恐怖は、
産まれたことを悔やむ想いとなって
その身に残り続けていた。



神のみぞ知る話。