特別企画 杉江能楽堂対談 | 能meets

能meets

観世流能楽師 林本大による
わかりにくいからこそ面白い能の、わかりやすく「濃密」な講座。
「能が皆さまに会いに行く」をモットーに大阪・東京・高知・栃木、他(福岡、長崎、札幌)で開催。
全国展開中!
スタッフ運営。

杉江能楽堂の多大な協力で行えたこのブログ特別企画。

能meetsの講座再開もあり、一旦終了いたしますが、お世話になった杉江能楽堂事務局の伊地知さんと、能楽師太鼓方金春流の中田弘美先生をお迎えして、対談をお送りします。

 

 

事務局の伊地知さん。

今回とてもお世話になったのはもちろん、ブログ企画では装束の着付け体験のモデルにもなっていただきました。

途中から中田先生に参加頂きました。

 

※対談は敬称略で失礼させていただきます。

 

林本:伊地知さんとお能の出会いはどういうものだったんですか?

 

伊地知:父親が謡を習っていて、聞いていたんですが「お経みたい」「何なん?」と思ってました(笑)そこからお能には触れず。友達が文楽の太夫だったんで、伝統芸能は文楽からスタートしました。そして落語も好きになって繁盛亭などへ足を運び、そのあたりから、ようやくお能にも興味を持ち、両親と共に(お母さまは着付けをされています)観世会館などにお能を見に行くようになったんです。

 

 

林本:最近私の教室の見学に来られる方でも「親が謡をやっていたので」「子供の頃は何の事か分からなかったけど、今になったら分かるかなと思って」という方が非常に多いです。謡の稽古が知らず知らずに親から子へ受け継がれていくのは非常に興味深いです。

 

伊地知:なのでこの間の装束体験の写真は本当に喜んでくれました!

 

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林本:是非ともまた!そして杉江能楽堂と出会いは…

 

伊地知:私の伝統芸能好きを知っていた、勤め先の病院の経営者(谷口氏)から「うち能楽堂があるんですよ、見ます?」と連れて来てもらったのが最初の出会いでした。大した期待もせずに(笑)…でも衝撃を受けました。

 

林本:そうでしょうね、ここは。

 

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伊地知:個人所有で非公開だった建物で、所有者の高齢化や管理維持の問題から法人化して護持運営していこうという流れになっていていて…雨戸で覆われていた姿を現したとき「よくぞ、この姿で残っていてくれた」と感謝のような感動と、自分の家でもないのに「護りたい、残したい」という義務のような感情が生まれたんです。先人たちの業績を後世に繋ぎ、歴史的意義や文化振興に活かすことは残されたものの指名だと。

 

林本:我々も同じ気持ちで取り組んでいますね。

 

伊地知:今もその気持ちは続き「やりぬきたい、全うしたい」と思っています。まずは岸和田に住まわれている方たちに、「自分が住む町に歴史的な文化財が生きている」ということを知ってもらおうと。

 

林本:去年から、地域に根付いた催しなども企画されていましたね。

 

伊地知:はい。学校や社会科見学の受け入れなども。

 

林本:さらに、落語や朗読会、ジャズなどの多彩な企画もですね。

 

伊地知:ただ本来の使い方をしたいという想いはありました。能楽堂やのに能やってないってまがい物のような、カッコだけにはなりたくないと思っています。地元の方にも能を身近に感じていただける催しをと。今も手探りで勉強中です。

 

林本:伊地知さんは本当にこの能楽堂を何とか広めたいと常日頃尽力され、そのご苦労は隣でいつも拝見していて本当に頭が下がります。今能のファンや催しが減少し、能楽堂自体経営する事が困難な中、「本来の使い方をしたい」と仰っていただけるのは私達能楽師からすると大変嬉しくありがたい事です。

伊地知:人で勝負するしかない、人ありきで、その人に集まってくるものだと思って仕事をしています。

 

林本:同感です。どのような設備の劇場であるかというハード面も大切ですが、「どのような人が」「どのような思いで」「どのような作品を」という、運営も含めてのソフト面の充実がまず大切で、私が全国で開催しています「能meets」も常にその事を念頭に置いて運営しています。そして、中田先生と出会われたんですね。

伊地知:はい。共通の友人を介して。能楽堂を活用するにあたってアドバイスを聞きたくて紹介してもらいました。

 

林本:中田先生はこの能楽堂にどんな想いをお持ちですか?

 

中田:キャパも多くはなく、大掛かりなものは難しいし、大阪市内の方が来られるかなど考えていかないといけないことはあるけども、やれることがあると感じましたね。小さいからこそ、そして庭園のような白洲なども使って、新しい事も出来そうだと。


 

林本:そうですね、私も初めて拝見した時「舞台と客席が近くて遠い」「屋内であり屋外」という不思議な空間だと

 

※スタッフ 先生方の杉江能楽堂の素晴らしさを話す様子をとても嬉しそうに聞いている伊地知さんが印象的でした。

 

 

伊地知:今年は色々と無理になってしまいましたけど…目標だった自主公演での能公演が(※5月31日開催予定だった「きしわだ杉江能」)も延期に。

 

中田:私は定期的にここでやっていきたいという思いがありますよ。主催の催しを企画して、大阪の若い能楽師を、古い能楽堂だからこそ呼んでみたりして、新しい事が出来れば。信用・信頼出来るメンバーをね。初めて能を見る人が多いほど、若さやパワーを、エネルギーを見せて行きたいなと。そうしてそれを2回、3回と継続してもらえるように。

 

林本:そうですね。たった1回で終わってしまわず、定期的に色んな活動をこの能楽堂で続け、「あそこに行ったら何か面白い事やってるのでは?」と、皆さんが空いた時間に立ち寄る場所の選択肢の中に「杉江能楽堂」が入るきっかけを作りたいですね。それは能に限らず、色んな文化を発信していければ。

 

中田:ナニワノヲト(※中田先生のご子息が参加の囃子方若手ユニットナニワノヲトTwitter)のキャッチコピー「若さしか見せません」。なんかね、だからこそお客様に訴えるものがあるのではと。


林本:そうですね、若いメンバーが動かす事で、「とりあえずやってみようか?」という思いが上手く作用していってほしいです。勿論思い付きだけで運営していく訳にはいきませんが。

 

 

伊地知:中田先生がアドバイザーとして杉江能楽堂に関わってくださっている事は本当にありがたいです。林本先生をご紹介いただいたのも中田先生からで。去年秋に能楽堂でクロージングでの講座をお願いしたのが出会いでした。

 

林本:そうでしたね。ありがとうございます。

 

伊地知:その時は「近寄りがたい感じ」でした。

 

林本:なんで(笑)

 

 

※スタッフ 「中田先生も」と思っていました…能楽師の先生方特有の空気なんでしょうか…。実際にはとても気さくなお人柄でした!

 

伊地知:でも、そのあと先生の事を調べて能meetsを知り、そのコンセプトに感銘を受けて参加を決め、実際に見た(去年末能meetsかむなび)時には「何でもっと早く知っておかなかったんだろう」と思いました。

 

林本:ありがとうございます。


伊地知:延期になった「きしわだ杉江能」も、おシテを林本先生にと中田先生が。

 

 

中田:私も若手の頃に響というユニット(囃子方5人)を立ち上げて、平成元年お客様へのワークショップを年4回、そのお客様に年に一回開催する本格的な能公演を来てもらえるようにと活動をしてまして。「能楽堂へお客様を」「お弟子さんにチケットを売るだけにならないように」という想いで。ただ、ワークショップが受け入れられない時代だったんでね。喋る人がそのあと演じることがNGだった。苦労も多かったんですが、後見人としてそれぞれの師匠がチラシなどに名前を出してくれたので自由に活動が出来た部分があったなと。

 

伊地知:今は先生がその役割を担ってるってことですよね。

 

 

中田:私も家の子ではなく、学生から能の世界へきた人間なので。

 

林本:はい、私も子方(子役の事)は経験しておらず、学生時代に初めて能に触れました。大学時代は試験まで休んで能を観にいき、どれだけの舞台を鑑賞したか数えられません。

 

伊地知:能meetsブログでも仰っていた「元々客席にいた人間」という事ですよね。

 

 

林本:はい。だからこそ気付く事もあるのではないかといつも考えています。例えば照明の事、ロビーの充実度合い、その会の主催者が誰だったのか分からないまま終わるとか。その違和感が、「舞台側の人間」になると違和感でなくなってしまいそうになる。しかし、中田先生から与えられたこの機会を好機として、昔学生の時客席で考えていた事をこの杉江能楽堂で表現できればと考えています。

 

中田:能とは観る方に力のいる演劇というのが今までのスタンス。私はそれを強要せず、少しだけフォローしていきたい。
お客様と役者で一体となって創る特殊な舞台なので帰り際までその余韻をしっかりと感じてもらいたい。
林本君がやっている能meetsには能の持っている他にはない緊張感や喜怒哀楽にお客様を誘導し、いい能をみせて欲しいお客様が感動してくれる入り口を誘導してほしいと。
 

伊地知:その入り口のお手伝いをしたいと私も思っています。

 

中田:このコロナ禍で3月から舞台がない状態。先の見えなさは辛い。でも先輩方は戦争災害を乗り越えてきたんだから、我々が今踏ん張らないと。

 

伊地知:きしわだ杉江能も延期にはなりましたけど、是非ともよろしくお願いいたします。「埃に埋もれた能楽堂という宝物を、まちの誇りに」一人でも多くの方に認知していただけるように、事務局としても取り組んでいきます。

 

林本:そうですね。私もそんな皆さんの想いや、杉江能楽堂独特の特徴を上手く使って素晴らしい舞台を勤められたらと思います。

 

 

 

先生方、そして伊地知さんありがとうございました。

 

スタッフの私は、舞台で中田先生を何度も拝見していましたが、お話するのは初めてでした。

途中も書きましたが…失礼ながら近寄りがたいと思っていました。

更にこの日は髭も…一見かなり強面に見えました。でも本当に気さくに色々とお気遣いいただきましたし、面白い事を言われては笑顔を見せて下さるその姿に、私までたくさん楽しませていただきました。

そしてお話を伺っていくにつれ、能meetsで聞く林本先生の考えと同じことが多いとも感じました。「お客様を能楽堂へ」など

そして中田先生はご自身が経験した事を後進へ伝えたり、苦労したからこそご自身も杉江能楽堂に協力してお力やお名前をお貸しして、支えてくださるような事をされているんだなと感じました。

芸だけでなく、お考えや恩や想いも伝承されていくものなんですね。

 

また、伊地知さんの能楽堂への想いや、地元の方にまずは認知をしていただきたい、地元と共に歩んでいきたいという気持ちに、ますます能meetsとして微力ながらも色々とお手伝い出来たらと思いました。

 

こんな方々の想いが詰まった「きしわだ杉江能」が、そして今後の杉江能楽堂が楽しみになってきました。

 

何よりまた7月からの能meets杉江能楽堂ブログ特別企画でお世話になります!

たくさんの方にこの杉江能楽堂の、そしてお能の魅力を伝えられたらと本当に思います。