高校時代からの数少ない友人に、ナカイという、くそやろうがいます。

私は大学受験のために1年間、浪人生活をしていたのですが、ナカイも同じ浪人仲間でした。

浪人生というのは、けっこう心細くて、自分の価値を自分で認めることができない時期です。

 

 

 

 

 

 

このまま第一志望はおろか、大学にさえ合格できなかったら、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

そんな不安が、いつも頭をよぎるのです。

いま取り組んでいる勉強が果たして実を結ぶかなんて、わかりません。

とりあえず予備校に通って、授業が終わったら自習室にこもる生活です。

 

 

 

 

 

 

自習室では同じように浪人生が勉強しているけれど、彼らはどんなことを考えているのだろうかと、ふと思ったりもしました。

たぶん私と似たり寄ったりの不安を抱えていたんだと思います。

 

 

 

 

 

 

ナカイも、同じように自分の存在価値みたいなものを信じられなかったみたいです。

他の仲間も含めながら、よく近所の大学の学食に潜入して、

 

 

 

「おれたち浪人生に人権はないよな。」

 

 

 

とか言い合いながら、ランチを食べていました。

 

 

 

 

 

 

あるとき、ナカイがぼそっと、つぶやきました。

 

 

 

「おれたちも、はやく人間らしい生活をしたいよな。」

 

 

 

そう、つぶやいたのです。

私も同じ思いをもっていたので、うなずきました。

 

 

 

 

 

 

でも、ふと気になりました。

ナカイが言う「人間らしい生活」って、どんなものなのか、興味がありました。

ナカイは、どんな生活を望んでいるのだろう。

聞いてみました。

 

 

 

 

 

 

「人間らしい生活って、どんな生活なの?」

 

 

 

 

 

 

ナカイは答えました。

 

 

 

 

「人間らしい生活っていうのはなあ」

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎日ちゃんと歯をみがくっていうことだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいですか。

ナカイによれば、毎日ちゃんと歯をみがけていれば「人間らしい生活」を送っているということになるらしいのです。

 

 

 

 

 

 

カルピスが薄いとか、ダイヤモンドを忘れているとか、悩んでいる人も多いかも知れません。

でも、このように「人間らしい生活」を送るのは、容易ではないのです。

カルピスを濃くしたり、ダイヤモンドとして生きるのは、「人間らしい生活」を送るのと同じくらい難しいことなのです。

 

 

 

 

結局、ナカイは歯をみがかないまま、早稲田の理工学部に進学しました。