暮れの頃か、年明けだったかよく覚えていないが
長男がおばあちゃんの家に泊まりに行きたいと
言い出した。
10月から、夫が子供に会いたいという連絡は
まったくなくなっていた。
しかしそれまでは
ほんとうに子供が不憫でならないといったような態度で
迎えに来ていたので
とりあえず、夫の実家のほうへ電話を入れてみた。
子供に受話器を持たせて話をさせたが
私にかわってという。
すると夫の母親は、もう電話をさせないでくれと言うではないか。
じいちゃん、ばあちゃんは遠くに引っ越したとか
なんでもいいからもう泊まりにも行けないし
電話もつながらないと言ってくれと。
その理由についてはおおよそ察しはついたが
そんなもんなのだろうかとこっちのほうが面食らってしまった。
でもこっちがいろいろ言うわけにもいかないので
「ほんとうにそれでいいのですか?」
とだけ念を押すと、かまわないからという返事だった。
長男にはそんなことはいえないし
何か聞かれたときは適当にごまかすしかないと思っていた。
それからその後
長男が小学校入学前だったろうか
今度は父親に会いたいと言った。
離婚後、数回会ったときに
それまでとは違ってかなり甘やかされていたようだし
そういうことを覚えていたのだろうとも思うし
長男は長男なりに
なにか状況が変わって、お父さんとは離れて暮しているなとは
認識していただろうから。
私はどうしようかと迷った。
父親は再婚したということをわかるように説明できても
なぜ電話してはいけないかということを話して
納得させるということができるかどうか自信がなかった。
そして思った。
夫だってこの子の父親だ。
自分の気分で子供をねこかわいがりして
自分が再婚するとなって都合が悪くなると
子供に何の説明もせず知らん顔なんて
あまりに自分勝手で
子供に対しての責任とか情愛とか何にもないじゃないか。
長男に電話させようと決めた。
夫がちゃんと子供に説明すべきだと思った。
私は夫が再婚する予定で
そういう準備をしている段階だろうとしか思ってなくて
夫側から直接聞いたわけではなかったし。
だから長男が電話しても夫が電話に出ると思い込んでいた。
しかし、電話に出たのは再婚した相手だった。
「おかあさん、電話に女の人がでたよ」
予期せぬ事態でちょっと慌てた。
ひょっとしたら、夫はバツイチで子供もいるとか
再婚相手にいってないのではないのだろうかという気がしていたから
一瞬どうしようかとは迷ったものの
そんな事こっちには関係ないことと思い直し
「お父さんにかわってくださいって言いなさい」と教えた。
父親としばらく話していた。
電話を切って、長男が言った。
「お父さん泣いてたみたい」
「女の人の声、とてもかわいかった」
「お父さんはその女の人と結婚するって。
そしたらもう、僕のお父さんじゃなくなるんだよね。」
今思えば、夫が長男にそう説明したのだろうか。
私は長男になんにも言えなかった。
幼い心に突きつけられた
勝手な大人の都合。
ごめんね。ごめんね。ごめんね。
あまりにも酷な現実。
子供心に精一杯がんばったんだろうな。
それからはずっと、長男の口から
「お父さん」という言葉をきかなくなった。