ショックと不安が大きく現れている瞳で立ちすくんでいる杏梨を志岐島は雪哉に見るように顎で示す。
まだ怒りのおさまらない雪哉だが、相手は気を失い殴っても痛みを感じないだろう。
志岐島は携帯電話をポケットから出して救急車を呼んだ。
苦々しげな表情の雪哉は杏梨に近づくと心配そうな顔に変わる。
視線が合うと杏梨は首を横にねじの巻かれた人形のように振った。
「な、何もされて・・・ないよ」
搾り出すようにやっと言う。
「杏梨・・・・・・」
言葉が出なかった。
言葉によっては杏梨の心を傷つけトラウマが復活してしまうだろう。
「ゆきちゃん・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
「謝らなくていいんだ」
抱きしめたらどんな反応をするのだろうか?
雪哉は腕を伸ばせなかった。
その時、杏梨が雪哉の懐に入るように動いた。
杏梨の頭が雪哉の胸に付くとやっと腕を伸ばし抱きしめる事が出来た。
「黒田さん、手を緩めて」
志岐島が琴美に言っている。
やっと琴美はグラスの破片を持つ手を緩めた。
その途端、琴美の身体がグラッと揺れる。
「お、おいっ!」
倒れかけた琴美を志岐島が支える。
気を失ってはいないが瞳が虚ろだ。
「警察へ・・・連れて行ってください・・・・・・」
「その手を治療してからな」
志岐島は血だらけの手に自分のハンカチを巻いて結んだ。
開かれたドアの向こうががやがやとうるさくなった。
カラオケに来た客と救急隊のようだ。
突然に白いヘルメットと白衣を来た救急隊が現れて大騒ぎになっている。
「雪哉、サングラス 杏梨ちゃんを連れて早く出るんだ あとは俺に任せろ」
これがマスコミにばれたらまた世間を騒がせてしまうだろう。
「わかった・・・・・」
素早くサングラスをかけた雪哉はジャケットを脱ぐと杏梨の肩に羽織らせて抱きかかえるようにして部屋を出た。
続く