フワフワした柔らかい毛に
ぬくもりを感じました。
抱きしめると
力強い鼓動が聞こえました。
深い深い誰にも
見つけてもらえないほど深い
地の底にうずくまる私の傍まで
彼は降りてきてくれました。
そして命のすべてを私に預けるように
ぴったりと身体を寄せて眠りました。
朝、目を開けたらニャアと鳴き、
私の鼻を舐めました。
…グルグル…グルグル…
幸せの音をたてました。
毎日、一緒に寝ました。
数年後、
結婚をした私は彼を実家に
残し家を出ました。
ずっと私を探し続けていたようです。
事情を説明が出来れば
よいのですが彼には通用しません。
混乱のあまり、食事も喉を通らずに
日に日に痩せてゆく姿を
帰宅時に見るたび胸が痛みました。
子供を連れて実家に帰ると
子供が苦手なのか、子連れの
私にさえ近寄ってきませんでした。
しかし、子供が寝つくと
そろうっと寄ってきては、
昔と変わらぬ声でニャアと
鳴いて抱擁を求めてくれました。
…グルグル…グルグル…
昔と変わらず幸せな音でした。
年齢を重ねた彼の調子が
悪いと聞いたのは
全くご飯を食べなくなってから
一か月経ってからでした。
かなり弱っており、生きているのが
不思議だと獣医が言っていると
母親は言いました。
久しぶりに私が帰ったその日。
物陰に隠れる彼の名前を
何度も呼びましたが
返事をしませんでした。
彼はハアハアと
苦しそうな息遣いをしていました。
身体を撫でるとかなりの
熱があり、骨と皮だけに
なった彼の身体を
何度も撫で続けました。
心不全で呼吸障害を
起こしていたそうです。
何度か身体に貯まった
水を抜いてもらっていました。
しかし、針を刺されるとき
彼があまりに痛がるので
もうやめたと母親は言いました。
その夜、
私は実家に泊まりました。
もちろん子供と一緒に寝ました。
物陰から彼はピクリとも動かずに
こちらを見ていました。
息遣いの荒さが聞こえないほど
静かに息を潜めて。
「おいで」
そう声をかけました。
でも彼は来ませんでした。
私は眠りにつきました。
翌朝起きると
彼は息を引き取っていました。
身体を地べたに横たわらせ
安らかに目は閉じられており
静かに寝ているようでした。
その体はまだ温かく、
硬くはなっていませんでした。
私は毛布でそっと、
くるんで抱きかかえました。
涙が溢れては
止まりませんでした。
何度、彼の名前を呼んでも
彼は目を開けて
くれませんでした。
それでも彼は
あの日と変わらず温かかった。
私が帰ってくるのを
ずっと待っていてくれた。
そう思いました。
もっと早く帰れば良かった。
一緒に横たわって
寝てあげればよかった。
彼がかつてそうやって
私を温めてくれたように。
死ぬ前の夜。
子どもと二人で
寝ていた私をじっとみて
どんな気持ちでいたんでしょう。
もしかしたら、最後ぐらい
「抱いてくれよ」と
言いたかったのかもしれない。
今頃
恩知らずって怒っているかな。
だとしたら…向こうへ行って
誰より初めに
謝らなければなりません。
許してくれるでしょうか。
会ってくれるでしょうか。
抱きしめさせてくれるでしょうか。
キスさせてくれるでしょうか。
あの幸せの音を
もう一度聞きたいのです。
…グルグル…グルグル…
完
*愛ネコへ捧ぐ♪
ご精読ありがとうございました。
