第4話・前編

夢から覚めない愚かな夫。突きつけられる絶望の現実


玲奈さんとのあの地獄のランチから帰宅した、その日の夜。

リビングのソファにふんぞり返った拓也は、私が夕飯の片付けをしている背中に向かって、信じられない言葉を投げかけてきた。


「おい沙織、例の件だけどさ。お前もそろそろ現実を見ろよ。俺たちの関係はもう冷え切ってるんだ。お前みたいに夢のない女とこれ以上一緒にいても、お互いのためにならないだろ?」


拓也はポケットからクシャクシャになった離婚届を取り出し、ローテーブルの上に放り投げた。


「早くこれにサインしろよ。俺は玲奈さんと、もっと高いステージで新しい人生を歩むって決めたんだ。お前には今のこの家と、最低限の養育費は払ってやるからさ。な?」


高いステージ。新しい人生。

玲奈さんに完全に洗脳され、自分が「選ばれた男」にでもなったつもりでいるらしい。

昼間、その女神様がサラ金の写真を見せられて、涙目で必死に命乞いをしていたことも知らずに、この男はまだ甘い夢の中にいるのだ。


私は洗っていた皿を置き、ゆっくりと振り返った。


「拓也、本当にその離婚届、私に書かせてもいいのね?」


「あ談な。お前が渋れば渋るほど、見苦しいだけだぞ?」


私は無言でリビングの棚から、一冊の分厚いクリアファイルを取り出してきた。

そして、それを拓也の目の前にドン、と置いた。


「じゃあ、サインする前に、これを確認してもらえる?」


「なんだよこれ、面倒くさいな……」


拓也がイラつきながらファイルを開いた瞬間、その手の動きがピタリと止まった。


一番上のページにあったのは、火曜日の夜、薄暗いカフェバーで玲奈さんと密会し、手を握り合って鼻の下を伸ばしている拓也自身の鮮明な写真だった。


「な、なんだよこれ……! お前、本当に探偵なんか雇って……!」


「驚くのはそこじゃないわよ。もっと後ろのページも見て」


私が冷たく促すと、拓也は血相を変えてページをめくった。

そこにあったのは、玲奈さんのあの「裏アカウント」の投稿の魚拓。そして、拓也が渡された投資契約書が『偽造』であり、300万円が玲奈さんのサラ金の返済に消えたことを証明する、佐藤弁護士からの調査報告書だった。


『工務店勤務の低年収夫、お買い得なワインで大喜び。ちょろすぎて笑える。この旦那、どこまで堕ちるか試してみようかな』


画面に印刷された、玲奈さんの本音が書かれた無慈悲な言葉を、拓也は何度も何度も読み直していた。


「え……? 嘘だろ……? 玲奈さんが、俺を……見下して……? 投資じゃ、ない……?」


拓也の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

自尊心を満たしてくれていた完璧な美女が、実は自分をただの「家畜」か「金づる」のように扱い、裏で激しく嘲笑っていたという最悪の真実。


ガタガタと震え始めた拓也に対し、私はさらに冷酷なトドメの一撃を突きつけた――。




💬 管理人コラム

第4話・前編をお読みいただきありがとうございました!

ついに拓也にも現実という名の特大ハンマーが振り下ろされました!🔨✨

「高いステージへ行く」なんて鼻高々だった男が、自分がただの『ちょろい金づる』として裏アカで笑い者にされていた事実を知った瞬間の絶望顔。想像するだけで、お腹の底からスカッとしますね!自業自得とはまさにこのことです!


信じていた女神がただの詐欺師だったと知った拓也。ここからどんな無様な姿を見せるのでしょうか?


次回、第4話・中編では、パニックに陥った拓也の「見苦しすぎる手のひら返し」と、沙織さんが突きつける容赦ない離婚条件、そしていよいよ金曜日を迎える玲奈さんの動向が描かれます!

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