第3話・中編:プロが授けた冷徹な包囲網。「イエスマンの夫」ごと義実家を叩き潰す方法
「お義母さんとお義姉さんから……毟り取る?」
私は佐藤先生の言葉をそのままオウム返しにした。
借金を抱えて逃げ回っているお義姉さんと、見栄を張ることしか頭にないお義母さん。あの親子に、420万円もの大金を支払う能力があるとは到底思えなかったからだ。
しかし、佐藤先生は不敵な笑みを崩さないまま、ホワイトボードにペンを走らせた。
『いいですか、美咲さん。確かにお義姉さん個人には、今はお金がないかもしれません。ですが、お義母さんが一人で暮らしている【義実家の土地と建物】、これは亡くなったお義父様の名義のままか、あるいはすでにお義母様が相続されていますよね?』
「はい、確かにお義父さんが遺した一軒家があります。古いですが、駅からはそこそこ近い場所です」
『そこです』
佐藤先生はホワイトボードの「義実家(不動産)」という文字を強く丸で囲んだ。
『今回、お義姉さんが作った420万円の借金は、ご主人が連帯保証人になっています。このままお義姉さんが払わなければ、当然ご主人に一括請求が行き、払えなければご主人の給与や財産が差し押さえられます。――でも、これは“ただ離婚するだけ”の場合の話です』
先生は私をまっすぐ見据え、声を一段落とした。
『私たちが取るべき戦略はこうです。まず、ご主人に対して【20年間の不法行為(婚姻費用の隠蔽)】および【無断の連帯保証による婚姻関係の破綻】を理由に、徹底的な離婚協議を仕掛けます。その上で、ご主人に【義姉に対する求償権(代わりに払った分を返せと請求する権利)】を行使させるのです』
「求償権……ですか?」
『ええ。ご主人が連帯保証人として420万円を背負う形になりますが、その原因を作ったのはお義姉さんです。ご主人の名義で、お義姉さん(実質的には義実家全体)に対して「お前たちのせいで背負った420万円を全額返せ」という裁判を起こす、あるいは公正証書を作らせます。そして、その担保として【義実家の土地と建物に抵当権を設定する】、あるいは最悪の場合、売却させて現金化させます』
義実家を、文字通り「身ぐるみ剥がす」まで追い詰める。
プロの口から飛び出したあまりにも具体的な不動産差押えのプランに、私は背筋がゾクゾクするのを感じた。あの、いつも上品ぶって私を見下していたお義母さんが、住む家を失うかもしれないのだ。
「でも先生、あのイエスマンの夫が、自分の母親や姉をそこまで追い詰めるような要求を呑むでしょうか? きっと『そこまでするな』って渋る気がします……」
私の不安に対し、佐藤先生は冷徹極まりない一言を放った。
『渋らせませんよ。ご主人がその条件(実家に責任を取らせること)を拒むなら、ご主人個人に対して、当事務所は容赦なく給与差押えと、最大級の慰謝料・養育費請求の法的続きを行います。破産して会社にいられなくなるか、実家を売るか。ご主人に選択肢は二つに一つしかありません。母親たちを守るために、自分のこれからの人生すべてをドブに捨てる覚悟が彼にあるかどうか、試してあげましょう』
その言葉を聞いた瞬間、私の心の中の迷いは完全に消え去った。
そうだ。20年間、私と子どもを犠牲にして実家を甘やかしてきたツケだ。今度こそ、あの男に本当の「地獄の選択」を突きつけてやる。
「先生、分かりました。そのプランでお願いします。すぐに書類の準備をしてください」
『承知いたしました。では、さっそく包囲網を敷きましょう。まずはご主人をこの相談室に呼び出し、第一弾の書類を突きつけます』
相談室を出た私の足取りは、今朝とは打って変わって軽かった。手には、弁護士が作成する「受任通知」と「協議申入書」の重みがある。私はスマホを取り出し、ビジネスホテルに篭っているはずの夫に、冷淡なメッセージを送った。これから始まる、本当の処刑の時間を告げるために――。
――第3話・後編へ続く。
✍️ 管理人より
弁護士の先生が提示したのは、「求償権」を使って義実家の不動産(一軒家)を狙うという、あまりにも鮮やかで冷徹な作戦でした!夫が実家を庇おうとすれば、夫自身を法的に限界まで追い詰めて強制的に実家と戦わせるという、マザコン・イエスマン夫の弱点を突きまくった戦術には脱帽です。
💡 「実家を売るか、自分が自己破産するか」の二択を迫られることになる夫について…
- 20年間家族を裏切ってきた夫への報いとして、これくらい徹底的に追い詰めるのは当然だと思いますか?
- いよいよ次回の後編で夫が呼び出されますが、彼はどんなリアクションをすると思いますか?
全7話の第3話(中編)、反撃の形が完全に見えてきました。美咲さんから呼び出しを受けた夫との、弁護士事務所での息詰まる後編も、ぜひお見逃しなく!