第2話・前編:嵐のあとの静けさと、虚無感。20年間の節約生活は何のためだったのか
「出ていって!!」
激昂した私の声が響き渡り、バタンと大きな音を立てて玄関のドアが閉まった。
健一とお義母さんを力任せに追い出したあとのリビングは、まるで嘘のように静まり返っていた。
テーブルの上には、冷めきった緑茶のカップが3つ。そして、夫の引き出しの奥から見つかった、あの【〇〇債権回収株式会社】からの督促状だけがポツンと残されている。
私はソファに崩れ落ちるように座り、ただ天井を見つめていた。涙すら出ない。あるのは、胸の奥がすっぽりとくり抜かれたような、凄まじい虚無感だけだった。
「20年……」
口から出た言葉が、冷たい空気の中に消えていく。
健一と結婚してからの20年間、私は何をしていただろう。少しでも家計を助けるために、スーパーのチラシを毎日見比べ、10円でも安い食材を求めて自転車を走らせた。自分の服や化粧品なんて、何年もまともに買っていない。子どもたちの塾の費用や将来の学費のために、体調が悪くてもパートのシフトを無理に詰め込んだ。
すべては「家族のため」だと信じていたから、少しも苦ではなかった。夫も同じように、贅沢もせず家族のために働いてくれていると信じて疑わなかったから。
でも、違ったのだ。
夫が小さなお小遣いでやり繰りし、いつも何かを遠慮していたのは、家族を想ってのことではなかった。実家を救うためでもない。
お義母さんの見栄であるブランド品の買い漁りと、お義姉さんのホスト通いのツケを、私に黙って20年間も肩代わりし続けていたからだ。
「ふざけないでよ……」
じわじわと、信じがたいほどの怒りが込み上げてきて、身体がガタガタと震え出した。私たちの必死の生活の裏で、義家族は夫の優しさに甘え、自分たちの作った泥を夫に、ひいては私たちの家庭に擦り付けていたのだ。
私たちは、あの親子の「都合のいい財布」として、人生を搾取されていたのだ。
その時、私のスマートフォンが短いバイブレーションを鳴らした。
画面を見ると、健一からのメッセージだった。
『美咲、本当に申し訳ない。母さんをとりあえず実家に送り届けて、俺は近くのビジネスホテルに泊まる。美咲の怒りは当然だと思う。でも、どうか一度だけ、ちゃんと話をさせてほしい。すべて説明するから』
「説明って、何を今さら……」
私はメッセージを既読にすることすら不快で、そのまま画面を伏せた。
今さらどんな言い訳を聞いたところで、消えた20年という歳月と、失われた信頼が戻るはずもない。
しかし、このまま泣き寝入りするつもりは毛頭なかった。
全7話のうち、まだ物語は始まったばかり。私はただ傷つき、引きこもるだけの悲劇のヒロインになるつもりはなかった。
私は立ち上がり、重い足取りで書斎へと向かった。夫が隠していた通帳、これまでの引き落とし履歴、そして督促状――。この泥沼の戦いに決着をつけるための「証拠」を、すべて洗いざらい集めるために。
その時、私の携帯に今度は「見知らぬ番号」からの着信が入った。恐る恐る通話ボタンを押すと、聞こえてきたのは、予想だにしない人物の声だった――。
――第2話・中編へ続く。
✍️ 管理人より
夫と義母を追い出したあとに残されたのは、あまりにも重い虚虚無感と怒りでした。自分のしてきた努力がすべて義家族の浪費に消えていたと知った美咲さんは、ついに証拠集めへと動き出します。
💡 もし夫から「ビジネスホテルにいる、一度話をさせてほしい」と連絡が来たら…
- 冷静に話し合うために、指定された場所へ向かいますか?
- それとも、弁護士を通すまでは一切の接触を拒否しますか?
最後に美咲さんのスマートフォンを鳴らした「見知らぬ番号」の主とは一体誰なのか? 復讐と解決への歯車が動き出す中編も、ぜひお見逃しなく!