第4話(前編)
親族会議で、義姉は私を悪者にした
日曜日の午後一時。
義実家のリビングには、普段より多くの靴が並んでいた。
義父の弟夫婦、義母の妹、近所に住むいとこ。
「介護について相談したい」と義母が声をかけ、親族が集まったのだ。
私は朝から食事の準備をし、お茶を用意し、来客を迎えていた。
まるで話し合いの当事者ではなく、接客係のようだった。
「由美さん、ありがとうね。」
親戚の一人が声をかけてくれた。
「毎日来てるって聞いたよ。」
私は照れくさく笑った。
「できることをしているだけです。」
その言葉を聞いた義姉は、少しだけ口元をゆがめた。
私はその表情が気になった。
何かを考えている。
そんな気がした。
全員が席につくと、義母が口を開いた。
「今日はみなさん、お忙しい中ありがとうございます。」
「今後の介護について、相談させてください。」
部屋の空気が静かになる。
すると義姉が、待っていましたと言わんばかりに話し始めた。
「実は最近、少し気になることがあるんです。」
私は思わず顔を上げた。
義姉は困ったような表情を作りながら続ける。
「由美さん、一人で頑張りすぎちゃって。」
「誰にも相談しないし、自分で全部抱え込むんです。」
親戚たちは静かに耳を傾けている。
義姉はため息をついた。
「私も『手伝うよ』って何度も言ってるんです。」
「でも、『私がやりますから』って断られてしまって。」
その瞬間、私は息をのんだ。
そんなこと、一度もなかった。
むしろ私は何度も「手伝ってください」と言いかけて、飲み込んできた。
「それで最近、お義母さんも疲れてしまって……。」
義姉は義母を見る。
義母は困ったように笑うだけだった。
否定もしない。
肯定もしない。
その沈黙が、私には何よりつらかった。
親戚の一人が私に尋ねた。
「由美さん、本当に一人で抱え込んでたの?」
私は言葉に詰まる。
ここで感情的になれば、「やっぱり余裕がない」と思われるかもしれない。
そう考えると、声が出なかった。
義姉はさらに話を続けた。
「介護って、一人でやるものじゃないでしょう?」
「でも由美さん、自分で全部やって、それで疲れたって顔をするんです。」
「正直、周りも気を使っちゃって……。」
親戚の数人が複雑そうな表情を浮かべた。
私はテーブルの下で手を握り締めた。
悔しかった。
毎日、仕事が終わってから義実家へ通い、帰宅は夜遅く。
休日は病院や買い物。
その生活を知っているはずの義姉が、まるで私が勝手に好きでやっているかのように話している。
それでも私は黙っていた。
義父の前で言い争いはしたくなかったからだ。
すると、それまで黙って話を聞いていた義父の弟が静かに口を開いた。
「真理子さん。」
「あなたは、週に何回ここへ来ているんだい?」
義姉の笑顔が、一瞬だけ固まった。
「えっ……。」
「仕事がありますから、毎週とはいきませんけど……。」
義父の弟は穏やかな口調のまま続けた。
「じゃあ、病院の付き添いは?」
「夜中に呼ばれたことは?」
「介護認定の手続きは誰がしたの?」
質問が続くたび、義姉は答えに詰まっていく。
部屋の空気が少しずつ変わり始めた。
そのときだった。
義姉は私を指さし、少し強い口調で言い放った。
「証拠もないのに、私ばかり悪く言うのはやめてください。」
私はゆっくりとポケットに手を入れた。
そこには、ずっと消せずにいたスマートフォンがあった。
――後編へ続く。