1話




第4話 「施設に入れればいい」――その一言で、35年間の家族が崩れました

「そんなに大変なら、施設へ入れればいいじゃないか。」

義兄のその一言で、部屋の空気が止まりました。

誰も声を出せません。

義母は静かに下を向きました。

義父は状況を理解できていないような表情で、私たちを見つめています。

私は思いました。

介護は確かに限界です。

施設という選択肢も、決して悪いことではありません。

でも。

今、その言い方をするのでしょうか。

「面倒だから施設へ。」

そんなふうに聞こえてしまったのです。


「金は出さない」

ケアマネジャーが静かに説明を始めました。

「施設にもさまざまな種類があります。」

「ご本人の状態や空き状況、費用も考える必要があります。」

すると義兄が言いました。

「費用は年金で足りるだろ?」

担当者は首を横に振ります。

「不足する可能性があります。」

「その場合は、ご家族で相談していただくことになります。」

義兄は顔をしかめました。

「俺は出せない。」

義妹も続きます。

「うちも子どもの教育費があるから……。」

夫も黙ったままです。

私は思わず聞きました。

「では、誰が負担するんですか?」

誰も答えませんでした。


「嫁なら当たり前」

しばらくして義兄が小さく言いました。

「昔は嫁が全部やってたんだから。」

私は静かに立ち上がりました。

もう我慢できませんでした。

「昔はそうだったかもしれません。」

「でも今は違います。」

「私は家政婦でも介護士でもありません。」

「お義父さんとお義母さんは、あなたのお父さんとお母さんです。」

「私は嫁です。」

「家族ではあります。でも、全部を背負う義務はありません。」

部屋は静まり返りました。

義兄は初めて目をそらしました。


義母が泣いた理由

その時でした。

義母が突然泣き始めたのです。

「もう施設へ行く……。」

「みんなに迷惑かけたくない。」

私は慌てて義母の手を握りました。

「違います。」

「お義母さんが迷惑なんじゃありません。」

「介護を一人に任せる今の状況が問題なんです。」

義母は何度もうなずきながら泣いていました。

その姿を見て、義妹も涙を流しました。


ケアマネジャーの言葉

ケアマネジャーは静かに言いました。

「皆さんに一つだけお願いがあります。」

「介護は『誰がやるか』ではなく、『どう分担するか』を考えてください。」

「そして施設は、家族が楽をするためだけではありません。」

「ご本人が安全に生活するための選択肢でもあります。」

その言葉に、部屋の空気が少し変わりました。

私は初めて、施設という言葉を前向きに考えられるようになりました。


夫が初めて頭を下げた

家族会議が終わったあと。

夫が私を呼び止めました。

「少し話せるか。」

外へ出ると、夫は突然頭を下げました。

私は驚きました。

結婚して三十五年。

夫が私に頭を下げたのは初めてでした。

「ごめん。」

「全部、お前に任せてた。」

「俺は仕事を理由に逃げてた。」

私は何も言えませんでした。

夫は続けます。

「親のことだから、俺がもっと動くべきだった。」

その言葉を聞いた瞬間。

胸につかえていたものが少しだけ軽くなりました。

私は責めてほしかったわけではありません。

ただ、「分かってほしかった」のです。


義兄から一本の電話

その夜。

スマホが鳴りました。

義兄でした。

「昼間は悪かった。」

私は黙って聞いていました。

義兄は少し照れくさそうに言いました。

「正直、介護って何をしたらいいか分からなかった。」

「だから、お前に甘えてた。」

私は初めて義兄の本音を聞きました。

「来週から毎週土曜日は俺が行く。」

「病院も付き添う。」

「妹たちとも話した。」

「みんなで分担しよう。」

電話を切ったあと、私は声を上げて泣きました。

もっと早く、この話し合いができていたら。

そう思わずにはいられませんでした。


それでも現実は甘くなかった

翌週から介護サービスの利用が始まりました。

デイサービス。

訪問介護。

ショートステイ。

家族の当番表も作りました。

ようやく前へ進める。

私はそう思っていました。

しかし、その矢先――。

深夜二時。

警察から電話が入りました。

「お義父さまを保護しています。」

義父は真冬の夜、一人で家を出てしまっていたのです。

(最終話へ続く)


■管理人より

介護では「施設か在宅か」という二択ではなく、ご本人や家族の状況に応じて複数の支援を組み合わせることが大切です。また、「嫁だから」「長男だから」という考え方だけでは、介護は続きません。一人で抱え込まず、家族や専門職と役割を分担することが、結果として本人のためにもなります。


■読者さまの体験談を募集しています

・兄弟姉妹との介護分担で揉めた経験
・施設利用を決断したときの思い
・家族会議で本音を伝えた体験
・介護サービスを利用して変わったこと

皆さまの体験やご意見を、ぜひコメント欄でお聞かせください。同じ悩みを抱える方の励みになるかもしれません。


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【「もう限界」と思った私が最後にたどり着いた答え――介護は家族だけで抱えるものではありませんでした】