【「嫁なんだから当然でしょ?」認知症の義父母2人を押し付けられた私が、家を出ようと決めた日】
第1話 介護が始まった日、「お願い」が「当然」に変わった
「嫁なんだから、お願いね。」
その一言が、私の人生を変えました。
最初は本当に「少しだけ」だったのです。
週に一度、買い物へ付き添うだけ。
病院まで車を出すだけ。
薬を飲んだか確認するだけ。
そう思っていました。
でも、その「だけ」は少しずつ増え、気付けば私の毎日は義父母の介護で埋め尽くされていました。
私は五十五歳。
パートをしながら夫と二人で暮らしています。
子どもたちは独立し、「これからは夫婦で旅行でも」と話していた矢先でした。
義父は八十五歳。
義母は八十二歳。
二人とも認知機能の低下が見られ、日常生活で支えが必要になっていました。
最初は夫も言っていました。
「みんなで協力しよう。」
私はその言葉を信じていました。
「少しだけ」が毎日になった
最初は週一回。
次は週三回。
そして毎日。
朝七時。
義父母の家へ向かいます。
冷蔵庫を確認し、朝食を作り、薬を用意します。
ゴミをまとめ、洗濯機を回し、病院の予約を確認します。
午後は買い物。
夕方は夕食作り。
夜になれば「財布がない」「家に知らない人がいる」と義母から電話。
駆け付けると財布は冷蔵庫の中。
誰もいない部屋で義母は怯えた表情をしていました。
私は何度も「大丈夫ですよ」と声を掛けました。
義母が悪いわけではありません。
病気なのです。
それは分かっています。
だから怒れませんでした。
でも。
私にも限界はありました。
夫の兄弟は四人いるのに
夫には兄と妹が二人います。
四人兄弟です。
なのに、義父母の家へ毎日行くのは私だけ。
義兄は県外。
妹は「仕事が忙しい」。
もう一人の妹は「介護は苦手だから」と言います。
夫は会社勤め。
「俺は平日は無理だから。」
結局、時間がある私が行くことになりました。
「パートだから融通利くでしょ?」
そう言われた時、胸がざわつきました。
私の仕事は「暇だから」しているわけではありません。
私にも生活があります。
私にも予定があります。
それでも私は、「家族だから」と自分に言い聞かせていました。
「嫁だから」
ある日。
義兄から電話がありました。
「いつも悪いね。」
そう言われると思っていました。
でも違いました。
「やっぱり嫁さんがいると助かるよ。」
「昔から長男の嫁が親を見るものだし。」
私は返事ができませんでした。
時代が違います。
介護は家族全員で支えるものではないのでしょうか。
電話を切ったあと、しばらく動けませんでした。
夜中の電話
その日の深夜一時。
電話が鳴りました。
義父でした。
「お母さんがいなくなった!」
慌てて車を走らせます。
義母は家の裏庭で立ち尽くしていました。
「家に帰れないの……。」
涙ぐむ義母を抱きしめました。
「ここがお家ですよ。」
義母は何度もうなずきました。
その姿を見て、私まで涙が出ました。
義母が悪いわけじゃない。
認知症という病気がそうさせている。
だからこそ、なおさら一人では支えきれないのです。
私の家庭が壊れ始めた
翌朝。
寝不足のままパートへ向かいました。
店長に言われます。
「最近、ミスが増えてるよ。」
家へ帰れば夕飯。
食べ終わる頃には義母から電話。
夜中は義父から電話。
私は自分の生活がどこにあるのか分からなくなっていました。
ある夜。
夫に言いました。
「もう一人じゃ無理。」
夫はテレビを見たまま答えました。
「もう少し頑張って。」
「兄貴たちも忙しいし。」
私は思わず聞きました。
「じゃあ、私は忙しくないの?」
夫は黙りました。
その沈黙が、何より悲しかったのです。
限界のサイン
数日後。
義父が転びました。
病院へ連れて行き、帰宅した直後。
今度は義母が台所で転倒しました。
幸い大きなけがはありませんでした。
でも私は、その場に座り込んでしまいました。
手が震えます。
涙が止まりません。
「なんで……。」
「なんで全部、私なの?」
その時でした。
義母が私の肩に手を置き、小さな声で言いました。
「ごめんなさいね……。」
その一言で、私は声を上げて泣きました。
義母は悪くない。
義父も悪くない。
悪いのは病気でもない。
介護を「一人でできる」と思い込んでいた家族全員だったのです。
しかし、この時の私はまだ知りませんでした。
数日後、私自身が救急車で運ばれることになるなんて――。
(第2話へ続く)
■管理人より
介護は誰か一人の「善意」だけで続けられるものではありません。認知症の方を支えるには、家族だけでなく介護保険サービスや地域の支援を活用することも大切です。
この物語はフィクションですが、「気付いたら介護を一人で抱え込んでいた」という悩みは、多くの方が経験されています。
■読者さまの体験談を募集しています
・義父母や実父母の介護経験
・「嫁だから」と介護を任された経験
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▼第2話はこちら
【「介護は嫁の仕事でしょ?」その一言で、私の何かが切れました】