【67歳、もう恋なんてしないと思っていた】第2話
70歳目前で恋をした。まさか私が誰かを待つようになるなんて

何気なく参加した歴史講座

離婚して一年半が過ぎていた。

生活は落ち着いていた。

友人との付き合いもある。

趣味もある。

健康状態も悪くない。

傍から見れば順調な老後だったと思う。

それでも。

どこか満たされない気持ちがあった。

孤独に慣れたつもりでも、完全に慣れることはできなかった。

そんなある日。

市の広報誌で見つけた歴史講座に申し込んだ。

昔から歴史が好きだった。

特に戦国時代や幕末の話には興味があった。

深い理由はなかった。

ただ家にいるよりは良いと思っただけだった。

その日の私は。

そこで人生が変わるなんて夢にも思っていなかった。

隣の席の男性

初回講座の日。

会場には同年代の男女が集まっていた。

私は後ろから二列目に座った。

すると。

少し遅れて一人の男性が入ってきた。

背筋が伸びている。

白髪交じりだが清潔感がある。

穏やかな雰囲気だった。

その男性は偶然、私の隣に座った。

講座終了後。

資料を片付けている時だった。

男性が話しかけてきた。

「面白かったですね」

ただそれだけだった。

たった一言。

でも不思議と話しやすかった。

私は笑って答えた。

「本当に」

そのまま数分立ち話をした。

好きな歴史人物の話。

旅行先の話。

昔住んでいた街の話。

それだけだった。

名前も知らない。

連絡先も聞いていない。

それなのに。

帰宅してからも、なぜかその男性のことを思い出していた。

次の講座が待ち遠しい

一週間後。

私は講座の日を楽しみにしている自分に気付いた。

まるで若い頃のようだった。

鏡の前で服を選ぶ。

髪型を整える。

少しだけ口紅を塗る。

そんな自分に驚いた。

六十代後半になって。

まさかこんな気持ちになるなんて思わなかった。

会場へ行くと。

彼はいた。

そして自然に私の隣へ座った。

講座終了後。

近くの喫茶店でコーヒーを飲むことになった。

そこで初めて名前を知った。

佐藤さんだった。

私より二歳年上。

七十歳だった。

彼もまた一人だった

何度か会ううちに。

お互いのことを少しずつ話すようになった。

私は離婚したことを話した。

すると佐藤さんは少し驚いた顔をした。

でも否定しなかった。

責めもしなかった。

ただ静かに聞いてくれた。

そして自分のことも話してくれた。

奥様を五年前に亡くしたこと。

長い介護生活だったこと。

最後まで自宅で看取ったこと。

話しながら。

彼は何度も空を見上げていた。

きっと今でも奥様を大切に思っているのだろう。

そう感じた。

だからこそ。

私は安心した。

軽い気持ちで近付いてくる人ではない。

そう思えたからだ。

久しぶりのときめき

ある日の帰り道。

駅まで一緒に歩いていた。

その日は風が強かった。

私の帽子が飛ばされそうになった。

すると佐藤さんがさっと手を伸ばした。

帽子を押さえてくれたのだ。

たったそれだけのことだった。

でも。

胸が少し高鳴った。

私は驚いた。

この歳になって。

誰かの仕草で心が動くなんて。

そんなことがあるのだろうか。

帰宅後。

一人で笑ってしまった。

娘に知られたら何と言うだろう。

友人たちに話したら笑われるかもしれない。

でも。

その時の私は少し幸せだった。

「また来週」

講座終了後。

別れ際。

佐藤さんが言った。

「また来週」

私は答えた。

「はい。また来週」

その瞬間。

私は気付いてしまった。

来週が待ち遠しいと思っていることに。

誰かに会うことを楽しみにしていることに。

その夜。

布団に入りながら考えた。

これは恋なのだろうか。

そんなはずはない。

私は六十八歳だ。

恋愛なんて若い人のものだ。

そう自分に言い聞かせた。

しかし心は正直だった。

スマートフォンを見る。

今日撮った講座資料の写真を見返す。

その中に偶然写り込んだ彼の姿を見つける。

そして少し笑う。

私はもう気付いていた。

人生が再び動き始めていることを。

だが。

その恋は。

思いもよらない壁にぶつかることになる。

それは。

私自身ではなく。

家族だった。

(第3話へ続く)


■管理人より

シニア世代の恋愛は決して珍しいものではありません。

しかし本人以上に、子どもや周囲の反応が大きな問題になることがあります。

「幸せになってほしい」と「騙されてほしくない」。

その間で揺れる家族は少なくありません。


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