【父が死んだ日】第7話
従兄弟の一言で全てが変わった
伯父の息子。
つまり私たちの従兄弟から電話がかかってきたのは、それから数日後のことでした。
正直なところ。
私は少し身構えていました。
土地の共有名義問題が発覚したばかりです。
もし権利を主張されれば。
相続はさらに複雑になります。
ところが。
従兄弟の話は私たちの予想を大きく超えるものでした。
電話の向こうで彼は言いました。
「実は前から気になってたことがあるんだ」
私は黙って耳を傾けました。
「伯父さんが亡くなる少し前」
「お兄さん、うちに何度か来てたよね?」
私は一瞬意味が分かりませんでした。
兄が?
伯父の家に?
確かに親戚付き合いはありました。
しかし頻繁に行き来していた記憶はありません。
私は聞き返しました。
「何の話?」
従兄弟は少し迷うように言いました。
「相続の話だよ」
背筋が凍りました。
父はまだ生きていた時期です。
それなのに相続の話?
私は詳しく聞きました。
すると従兄弟はこう話したのです。
「親父が言ってたんだ」
「お前の兄さんが土地の話をしてきたって」
私は言葉を失いました。
土地の話。
つまり共有名義の件です。
兄は数年前から知っていた。
それは本人も認めています。
でも。
家族には黙っていた。
そして伯父とは話をしていた。
なぜでしょうか。
疑問しかありませんでした。
その夜。
私は妹に電話をしました。
妹も驚いていました。
「それ、本当なの?」
「分からない」
「でも従兄弟が嘘をつく理由もない」
私たちは嫌な予感を共有していました。
兄は何を考えていたのか。
そして何を知っているのか。
翌週。
再び話し合いの場が設けられました。
母。
兄夫婦。
妹夫婦。
私たち夫婦。
そして双方の弁護士。
まるで会議のようでした。
家族の集まりとは思えません。
私は思い切って兄に聞きました。
「伯父さんと土地の話をしてたの?」
兄は一瞬だけ表情を変えました。
ほんの一瞬でした。
しかし私は見逃しませんでした。
兄は知っている。
そう確信しました。
兄はため息をついて言いました。
「少し話しただけだ」
「大した話じゃない」
私は食い下がりました。
「だったらどうして黙ってたの?」
兄は答えません。
代わりに兄嫁が口を挟みました。
「そんな昔の話を今さら責めても意味ないでしょう」
その言葉で妹が爆発しました。
今まで比較的冷静だった妹です。
しかし限界だったのでしょう。
「意味あるよ!」
「全部隠してたじゃない!」
部屋の空気が張り詰めました。
母は俯いています。
その姿を見るだけで胸が痛みました。
すると。
母が突然口を開いたのです。
小さな声でした。
でも。
誰よりも重い言葉でした。
「お父さんも知っていたの?」
兄が固まりました。
母は続けます。
「土地のこと」
「お金のこと」
「全部知っていたの?」
兄はしばらく黙っていました。
そして。
ゆっくり頷いたのです。
私は息を呑みました。
つまり。
父は知っていた。
そして兄も知っていた。
知らなかったのは。
母と私たちだけだった。
母の目に涙が浮かびました。
五十年以上連れ添った夫。
その夫から知らされていなかった事実。
それは相続問題以上に辛かったかもしれません。
その場は重苦しい空気のまま終わりました。
しかし。
帰り際。
兄の弁護士が一つの提案をしました。
「遺産分割調停を申し立てることも視野に入れましょう」
母が顔を上げました。
妹も私も凍り付きました。
調停。
つまり家庭裁判所です。
ついに家族の問題が。
法廷の場へ持ち込まれる可能性が出てきたのです。
そしてその夜。
母が私に言いました。
「もう疲れた……」
その言葉が。
父の死後、私が聞いた中で一番悲しい言葉でした。
(第8話へ続く)
■管理人より
相続問題が長引くと、お金よりも先に家族の心が疲弊していきます。
特に配偶者を亡くした直後の親にとって、子ども同士の争いは大きな負担になります。
誰のための相続なのか、改めて考えさせられる話です。
■体験談募集
・家庭裁判所まで発展した相続問題
・兄弟との絶縁経験
・親を巻き込んだ相続争い
・遺産分割調停の体験談
皆さまの体験談をお待ちしております。
