【父が死んだ日】第6話
父名義じゃなかった土地
「実は不動産についても確認したいことがあります」
兄側の弁護士がそう言った瞬間。
私は嫌な予感しかしませんでした。
これ以上何が出てくるというのでしょう。
父が亡くなってまだ数か月。
預金。
生前贈与。
使途不明金。
それだけでも十分でした。
しかし問題は終わっていなかったのです。
弁護士が差し出したのは登記簿謄本でした。
私は不動産の知識などほとんどありません。
書かれている内容を見てもすぐには理解できませんでした。
ところが母は違いました。
書類を見るなり顔色が変わったのです。
「そんな……」
小さな声でした。
しかし部屋中が静まり返りました。
母は何度も書類を見返しています。
震える指先。
私は慌てて聞きました。
「どうしたの?」
母はしばらく黙ったあと。
信じられないことを言いました。
「この土地、お父さんだけのものじゃなかったの……」
私も妹も言葉を失いました。
実家の土地です。
父が相続したものだとずっと思っていました。
父名義。
それが当たり前だと思っていたのです。
しかし登記簿には別の名前がありました。
父の兄。
つまり私たちの伯父です。
しかも共有名義。
割合は半分ずつ。
私たちは完全に混乱しました。
妹が聞きました。
「どういうこと?」
母は首を振ります。
「私も詳しく聞いていないの」
「昔、おじいちゃんの土地を兄弟で分けた時にそのままになったらしい」
つまり。
何十年も前の相続問題が。
今になって浮上してきたのです。
その時。
兄が口を開きました。
「だから言っただろ」
「簡単な話じゃないんだよ」
私は違和感を覚えました。
その言い方です。
まるで最初から知っていたかのようでした。
妹も同じことを思ったのでしょう。
すぐに聞きました。
「お兄ちゃん知ってたの?」
兄は一瞬だけ黙りました。
そして答えます。
「前から聞いてた」
私は思わず身を乗り出しました。
「聞いてたっていつ?」
兄は面倒そうに言いました。
「数年前かな」
その瞬間。
母の顔が変わりました。
「数年前?」
「どうして私に言わなかったの?」
兄は視線を逸らしました。
「別に必要ないと思った」
私は怒りを覚えました。
必要ない?
実家の土地です。
母が住み続けている場所です。
その重要な事実を。
知っていて黙っていた。
理解できませんでした。
さらに衝撃的だったのはその後です。
弁護士が説明しました。
伯父は現在施設に入っており。
判断能力が低下している。
そして伯父の子どもたち。
つまり私たちの従兄弟たちが。
土地の権利を主張する可能性があるというのです。
部屋の空気が重くなりました。
相続人が増える。
つまり話がさらに複雑になる。
誰の顔にも疲労が浮かびました。
母はうつむいたままでした。
私はそんな母を見るのが辛かった。
父を亡くしたばかりなのです。
それなのに。
預金問題。
兄との対立。
土地問題。
次から次へと問題が降りかかってくる。
その日の帰り道。
妹が言いました。
「お兄ちゃん、何か隠してると思わない?」
私も同じことを考えていました。
五百万円の件。
土地の件。
どちらも兄は知っていた。
それなのに家族には話さなかった。
偶然でしょうか。
私はそう思えませんでした。
数日後。
その疑念はさらに大きくなります。
伯父の息子。
つまり従兄弟から電話がかかってきたのです。
そして彼は開口一番こう言いました。
「実は、お父さんから聞いていた話がある」
その内容は。
私たち家族をさらに混乱させるものでした。
そしてそこには。
兄の名前が出てきたのです。
(第7話へ続く)
■管理人より
相続では、何十年も前の名義変更や共有財産が突然問題になることがあります。
「親が全部管理していたから分からない」というケースは本当に多いです。
元気なうちに権利関係を整理しておく大切さを感じます。
■体験談募集
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