【父が死んだ日】第2話
母も知らない通帳が見つかった
父の葬儀から三日後。
私は再び実家を訪れていました。
目的は遺品整理です。
母一人では到底できません。
妹も来ていました。
兄は仕事を理由に夕方から来ると言っていました。
父の書斎は生前のままでした。
机の上には使いかけのカレンダー。
読みかけの本。
愛用していた老眼鏡。
今にも父が部屋に入ってきそうな気がして、胸が苦しくなりました。
母は何度も涙をぬぐいながら整理を進めていました。
そんな時でした。
机の引き出しの奥から一冊の通帳が出てきたのです。
「あら?」
母が首を傾げました。
私はその通帳を受け取りました。
確かに父名義です。
しかし見覚えのない銀行でした。
少なくとも私は知りません。
妹も首を振りました。
そして母が言ったのです。
「私も知らないわ……」
私は思わず聞き返しました。
「知らないって?」
「お父さんの口座じゃないの?」
母は困った顔で頷きました。
「こんな銀行の口座があるなんて聞いたことないの」
部屋の空気が少し変わりました。
長年連れ添った夫婦です。
それなのに知らない口座。
不自然でした。
妹も同じことを思ったようです。
「お父さん、何か隠してたのかな……」
誰も答えられませんでした。
その時。
玄関が開く音がしました。
兄夫婦です。
兄は部屋に入るなり通帳に目を留めました。
そして。
一瞬だけ表情が固まったのです。
ほんの一瞬でした。
でも私は見逃しませんでした。
兄は明らかに動揺していました。
しかしすぐに平静を装います。
「何だそれ?」
母が答えました。
「お父さんの通帳みたい」
「でも私も知らなかったの」
兄は通帳を手に取りました。
ページをめくる。
そしてまた表情が変わりました。
私はその様子を見ていました。
何かがおかしい。
そう感じたのです。
兄はすぐに通帳を閉じました。
「まあ後で確認すればいいだろ」
そう言って話題を変えようとしました。
しかし妹が止めます。
「残高はいくらあるの?」
兄は答えません。
代わりに私が通帳を開きました。
そして息を呑みました。
そこには。
約一千八百万円。
かなりの金額が記載されていたのです。
母も驚いていました。
「そんな……」
「聞いてないわ……」
妹も目を見開いていました。
ところが。
兄だけは違いました。
驚くというより。
焦っている。
そんな印象だったのです。
その日の夕方。
私は台所で母と二人になりました。
母は小さな声で言いました。
「実はね……」
「最近、お父さんとお兄ちゃんがお金の話をしていたの」
私は耳を傾けました。
「どんな話?」
母は首を振ります。
「詳しくは分からないの」
「でも何度か銀行に一緒に行っていたみたい」
私は嫌な予感がしました。
父と兄。
銀行。
母の知らない口座。
そして兄の動揺。
点と点が少しずつ繋がり始めていました。
その夜。
帰宅した私は夫に話しました。
夫も眉をひそめます。
「何かありそうだな」
「でも決めつけるなよ」
確かにそうです。
証拠はありません。
ただの思い過ごしかもしれない。
しかし。
数日後。
私たちはさらに衝撃的な事実を知ることになります。
父が亡くなる半年前。
その口座から。
まとまった金額が引き出されていたのです。
そしてそのお金の行方を知る人物は。
おそらく一人しかいませんでした。
(第3話へ続く)
■管理人より
相続で問題になるのは財産の額だけではありません。
「誰が管理していたのか」「生前に何が行われていたのか」が大きな争点になることもあります。
家族だからこそ疑いたくない。しかし疑わざるを得ない状況もあるのです。
■体験談募集
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