統合失調症の寛解状態と統合失調感情障害
アムロジンなどの降圧剤は服薬すれば血圧が正常域まで低下するが、服薬をやめると次第に元の高血圧に戻ってしまう。つまり強制的に正常化させるもので、根本治療的な薬ではない。
これら高脂血症、高コレステロール血症、高尿酸血症など成人病の薬はほとんどがそのタイプの薬でありいったん始めたら中止が難しい。ただし、疾患のレベルにもよるが、運動療法や体重を減量することで正常化できる人もいると思われる。
この後半のアプローチは根本治療的な方法であるが、それなりにコストがかかる。これは継続的にスポーツジムに通うとか、美味しいものを食べず摂取カロリーを減らすために頑張らないといけないからである。普通は降圧剤や高脂血症薬を飲む方が遙かに楽である。
統合失調症の人で服薬しないと幻覚妄想が再燃し会社に行くどころか、日々の生活も成り立たないレベルの人がいたとしよう。この人は薬に反応性が高く、服薬しさえすれば会社も通勤できるまで回復するとしたら、服薬する価値が大いにあるといえる。ただし発病後に、病前のパーフォーマンスまでは達しない人もいる。そのようなケースでは、会社は本人に配慮し、部署替えなどを行いストレスが少ない職場に異動し就労が続くケースもある。これは統合失調症に限らず躁うつ病もそのような対処をする会社が多い。この会社の対応は規模により良い選択肢が取れないこともある。
既婚の女性の場合、仕事を持たない人はこの辺りの復帰のための要求レベルが低いため、主婦ならできるという経過になる人も多くなる。ここが更年期までの統合失調症の男女のレベル差に関係している。
普通、統合失調症の回復レベルを考える場合、いわゆる陽性症状、幻覚妄想の有無以外の要素もかなり多い。陽性症状が消退しても、仕事ができない人は全然できない。これは陰性症状が残遺するためで、例えば、不活発さ、集中力の欠如、無為などが挙げられる。
しかし統合失調症には明らかに陽性症状ではなく、かといって陰性症状ともいえない症状もある。例えば不眠、それもサーカディアンリズムの乱れなどである。その結果、規則正しい生活ができないために就労も難しくなる。不眠はそれ自体、陽性症状でも陰性症状でもないが、結果的には陰性症状的な病態に関係が深い。
慢性に経過する破瓜型(解体型)統合失調症の場合、陽性症状は概ね収まっていてもそれ以外の症状が重すぎて就労どころではないといった病態になりやすい。このような人はそれまでの臨床経過がそれ以降の病態に影響する。つまり服薬状況が予後に大きく関わるのである。
うちの病院の共同住居に入所している統合失調症の人たちは、1人1人思い浮かべると、誰一人、幻聴がある人がいない。しかし、かといって軽いかと言うと決してそうではないのである。ただし共同住居の住人も高齢化が進み、今は就労といった年齢ではない人が多くなった。
この共同住居の人たちは寛解状態かと言うととうてい寛解とは言えない。その理由は、陰性症状と言えない症状も含め、陽性症状以外の精神症状が重いからである。その視点では、家族と暮らしているものの就労もできず、滅多に外出しないひきこもり状態の人ももちろん寛解ではない。
寛解と呼べる状態とは、陽性症状がない(つまり幻覚、妄想、興奮など)に加え、陰性症状も軽いレベルに留まる人たちだけになる。そのような視点だと、統合失調症は寛解ですら難しい疾患である。これは特に自分の大学ではそういう感じであったが、自分の場合は、もう少し寛解の範囲が広い(と思う)。
統合失調症で服薬しないと幻聴や荒唐無稽の妄想が出てくるが、服薬すると見事と言うほどきれいに症状が消失する人がいる。これは薬物反応性が高い人である。服薬しないと必ず幻覚妄想が出てくるのがわかるのは、経験的というかその人の履歴がそうだったからである。もし発病以降、ずっと服薬し止めることがない人がいたとしたら、服薬を中断した際に必ず幻覚妄想が再燃することもわからないと思う。このタイプの人は最初に挙げた高血圧とアムロジンの関係に似ている。精神病が高血圧と異なる点は、現代医学で運動療法的な服薬に頼らない根本治療的アプローチが存在しないことだと思う。
このようなことから、統合失調症で寛解状態と言えるほど回復した人は発病後2年目くらいに一度、服薬を中止して様子を見るのも良いと推奨する臨床家もいる。これはそうでもしないと、服薬中止のチャンスなどないからである。ここは反対意見の精神科医の方が多いような気がするが、なぜそうなのかというと様々な要素があり、
○そもそも寛解状態のレベルに達している人が稀であること。
○須らくそのようなことを言うと、本人や家族が服薬の必要性を軽視し、服薬しなかったために再発する人が多くなる。
○再発することで非常に問題が生じる職種の人たちがいる。
○中止できると思われる人は病型が決まっているのではないでしょうか?
ざっと挙げてみると上のようなものである。
幻覚妄想状態の治療中、時間が経ち服薬の必要性が疑わしいと思える人がいるが、自分の場合、こちらから服薬中止を勧めている。これは幻覚妄想状態が消褪し、統合失調症とは診断できないと思われる人である。これは対人接触性が最も重要だが、就労状況なども考慮する。だったら、どのような診断になると言うと、
○一過性精神病性障害
○統合失調感情障害
○症状精神病など器質性疾患
くらいであろう。特に最初の一過性精神病性障害は、生涯に1度だけのエピソードだった確率も高く、一度、薬を中止してみる方がむしろ良い。
統合失調感情障害は、増悪時は統合失調症にしか見えないが、寛解すると病前とまったく変わらなくなる。仕事も普通にできる。そもそもこのタイプの疾患では、寛解後に精神病の痕跡がないので、履歴すら見えない。これは病型がそうなのでいったん中止してみるのも有力である。むしろ服薬を継続させる根拠が乏しいが、仕事のタイプによれば服薬根拠がある人がいる。上に挙げた「再発すると非常に問題が生じる職種の人」である。
統合失調感情障害の処方戦略が難しいのは、たいして服薬していなくても再発しないので、適切な服薬量が推し量れないことだと思う。ずっと何年か服薬をしていても、再発した場合、再発を防ぐ薬の量だったのか疑わしい。また、この病型だと、十分な服薬量を副作用に耐えて服薬する甲斐がない。そのようなことから、いったん中止し、3か月ごとに顔だけ見せに通院してもらう。このタイプの人は恐ろしいほど長期間再発がない人がおり、さすがに3か月ごと1年も来てもらうと、「もう次から来なくて良いですよ」くらいにこちらも言ってしまうため、その後、何年も通院も服薬もしない経過になる。
そして3年後とか、人によれば12年後くらいに幻覚妄想や昏迷状態で再び会うことになる。その時、どうみても統合失調症としか見えないので、「この人は統合失調感情障害だったんだ」という明確な診断がつく。一過性精神病性障害や症状精神病ではなかったのである。
その後、どの程度の服薬をするかは本人との話し合いである。あの自分の状態はやはりまずいというか、怖いという感触を持つ人は滅多に再発がなかったとしても服薬を希望する人もいる。周期の規模によると、服薬しないという選択肢はあると思う。
統合失調感情障害はいくら悪化時に統合失調症に見えたとしても、家系的には双極性障害の近縁にある。現代的には広汎性発達障害の家族歴も散見されるが、どのようになっているのか不明である(例数が少ないので)。
精神疾患の流れ的には統合失調症より双極性障害的だと思う。さほど広汎性発達障害的でもないが、ひょっとしたら、ADHDにいくらか関係しているかも?くらいであろう。
比較的服薬中止を助言しやすいのは、F2(ICD10)圏内では、統合失調感情障害であろう。2年目くらいにいったん中止してもリスクが少ないと言える人は、実際には限られているのである。
統計的に統合失調症の発病後2年目に、服薬中止してもまあまあの結果が得られているとしたら、統合失調症の中にノイズと言える統合失調症ではない人々(上に挙げた統合失調感情障害や、広汎性発達障害系の幻覚体験を持つ人たち)が紛れ込んでいるからであろう。これは十分に考えられることだと思う。