
誰にでもできることを積み重ねて生きる
午前6時、新宿駅東口広場。
ここから僕の1日は始まります。
日本一、いや世界一往来が多いといっても
過言ではないこの広場のゴミを拾い、
それから学校に行く。
そんな生活を始めて約半年が経ちました。
きっかけは一本の映画でした。
帰省した折、兄から
「『107+1 天国はつくるもの』
っていう映画があるらしいんやけど、観に行かへん?」
と誘われたのです。
怪しいタイトルだなと思いながらも、
特に用事もなかったので観に行くことにしました。
そして、号泣でした。
「一人が動けば世界は変わる」というメッセージが
込められたそのドキュメンタリー映画を観ながら、
「俺も動こう、何かをやろう」と思った時、
ぱっと頭に浮かんだのが、ゴミが散乱している
新宿駅東口広場だったのです。
「俺、毎朝6時から新宿の東口のゴミ拾いやるわ。」
上映後、興奮気味に兄に宣言すると、
「闇雲にやっても続かへんぞ。期間を決めてやれ」
と言います。「じゃ、1ヶ月間やる」と約束し、
帰京後すぐに開始したのです。
しかし、現実は厳しいものでした。
そもそも9時、10時に起床するような怠惰な毎日を
送っていたのです。毎朝5時に起きるだけでもつらいのに
時は11月上旬で、拾っても拾っても落ち葉が舞い落ちてきます。
次第に寒さが厳しくなる中、忘年会シーズンへと突入し、
通常のゴミはもちろん、ねずみやカラスの死骸、女性の下着
注射針など、考えられないようなものまでが捨てられていて、
集めたゴミは10袋以上にも膨れ上がりました。
友人のアイデアで「一緒に掃除してくれる人募集」と書いた
ダンボールの看板を首にかけていましたが、通りすがりに
「なんや、あいつ」と言う人、目の前でゴミを捨てる人、
時にはせっかく集めたゴミを蹴飛ばす人もいました。
「もう止める、明日は止める。…でも、1ヶ月経たんうちに
止めたら負け犬や」200回以上そんな心の問答を繰り返し、
葛藤がピークに達した頃でした。
ある朝、いつも通り一人でゴミを拾っていると、気がついたら
一緒に拾っている人がいるのです。
突然現れたその人は、新宿駅に寝泊まりをしているホームレスの
石浜さんというおじさんでした。
「君が毎日掃除しているのを見て、手伝いないかと思って」
と言って、以来毎日着てくれるようになった石浜さんは、
少し足が不自由で、ベルトがゆるいのか、いつもズボンから
お尻を半分のぞかせながらゴミを拾っていました。
ところがある朝、僕のほうが寝坊してしまった時がありました。
急いで駆けつけたものの、新宿に着いたのは8時近かったと思います。
広場では石浜さんが一人で足を摺りながらゴミを拾ってくれていました。
俺が行かなかったら、石浜さんは一人でやることになるんだ。
いま振り返ると、その頃から「つらい」とか「やめたい」
という思いが消えていったように思います。すると不思議なことに、
道行く人に「毎日ありがとう」とか「ご苦労様」と声をかけられたり、
時には温かい飲み物を差し入れしてくれる人まで現れました。
そして、「手伝います」と言って、一緒にゴミを拾ってくれる仲間が
一人、二人と増えていったのです。
そうなると段々楽しくなってきて、クリスマスの頃には
「俺、このゴミ拾いはずっと続けていくんだろうな」という確信を
持ち始めていました。
しかし、ちょうどそんな時でした。
「あれ、きょうは来ないのかな」と思ったその日から、
石浜さんは来なくなってしまったのです。
現れた時と同じように、突然ふっと姿を消してしましました。
もしかしたら石浜さんは、僕がゴミ拾いを続けられるように
神様が姿を変えて現れてくれたのかもしれません。
もしもあの時、石浜さんが現れなかったら、たぶん今日まで
続けてこられなかっただろうと思うのです。
そうして半年が経過したいま、新宿東口広場のゴミ拾いは、
同世代の大学生を中心に少しづつ仲間の輪が広がってきています。
それぞれの都合に合わせて参加してくれていますが、
申し合わせなくても毎日10人前後が集まるようになりました。
2時間かかっても終わらなかったゴミ拾いも1時間で終わるようになり、
ゴミの量も半分以下になりました。
ここまできたら、この広場をゴミ一つ落ちていない場所にしたいと思い
現在は東京都と連携して対策を取りながら行なっています。
ゴミ拾いを続ける中で気がついたことが一つあります。
よく「人生を変えたい」「幸せになりたい」と言いながら、
「何をしたらいいかわからない」という人がたくさんいます。
実際、以前の僕もそうでした。熱中しているものもないし、
友達と遊びたいし、ダラダラしているほうが楽だと思い、
人生を変えたいと思ってもその一歩を踏み出せずにいました。
しかし人生を変えるには、
会社を起こすとか、メジャーデビューするとか、そんな大きな
ことをしなくてもいいのです。ゴミ拾いのような、やる気になれば
誰にでもできる小さなことを着実に積み重ねていく。
そうすれば絶対に人生は変わるし、幸せになれると実感しています。
毎日元気に挨拶をする、花に水をあげる。
お母さんの家事を手伝う。
自分ができる小さなことを積み重ねていけば、それによって必ず
自分の人生は輝き出す。それがゴミ拾いを通して得た学びであり
一燈照隅の生き方ではないかと思っています。
荒川祐二(上智大学4回生)
娘がもらってきた藁半紙に書かれていた
心にしみるちょっと良い話(Vol.4)水上小PTA国語研修より
世界を 人生を変えるために 何を始めましょうか