いじめの時間/江国 香織
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只今旬の女流作家たち7人が、「いじめ」をテーマに様々な角度から描いてくれました。いじめによる子供の自殺が各地で話題になり、社会問題化している現在を意識した作品集なのかな~と思って読んでいたのですが、意外にも97年に出た本だったのですね。いつの時代でも「いじめ」は人間と切り離せないテーマということでしょうか。収録作品は以下の通りです。

 

「緑の猫」 江國香織

「亀をいじめる」 大岡 玲

「空のクロール」 角田光代

「ドロップ!」 野中 柊

「リターン・マッチ」 湯本香樹実

「潮合い」 柳 美里

「かかしの旅」 稲葉真弓

 

トッコの印象に残った作品は、まず、「亀をいじめる」です。他の作品が全て中高生を主人公にした学校内のいじめを描いているのに対し、この作品は35歳の男性教師が亀を虐待するという「いじめ」が描かれています。しかも、そのいじめ方が半端じゃない。ちょっといたぶる、程度ではないんです。ラストの描写、ブラシを持って乱打、その後ナイフで首を・・・・・・・には、思わず震えあがってしまいました。後味は最悪です。主人公の彼にとっては、思い通りにならない怒りのやり場が「いじめ」であり、「いじめの悦楽を抜きにしてすべての競い合いは語れない。」のだそう。とてもわかりやすい考え方ですが、その怒りのやり場を何の関係もない生き物に向けるというところが、やはり共感できないし、精神的に不健全なものを感じてしまいます。また、肉体的痛みを伴ういじめに悦楽を感じるというサディスティックな感覚も理解できない。そして、そんな感覚の持ち主が教師である、という設定にも背筋が凍るような感覚を覚えました。

 

次に、「リターン・マッチ」。ここに登場する、ケンちゃんの母親とトモユキの母親。トッコも二人の娘の母親として非常に興味深く読ませていただきました。より印象に残ったのはケンちゃんの母親で、そのエピソードをちょっとご紹介すると、、、、、、ケンちゃんの母親は、ちょっと頭のよかったケンちゃんのねえちゃんを、何とかして司法試験に合格させるために自分の全エネルギーを注ぐ。結局ねえちゃんは、国立大学の法科に行くまでは行ったが、司法試験に合格する前に家出して行方知れずになってしまう、というかんじです。この母親に対してトッコが一番言いたいことは、「母親が子供に対してまず育てなくてはいけないものは情緒」ということ。情緒を育てるために、友達と話をする、きれいな音楽を聴く、美しい花を見る、美しい詩を読む、おいしいご飯を食べる、それが一番大事。情緒なくして知識を詰め込んだところで、ただの辞書のような人間になってしまうということ。ケンちゃんの母親はやや極端ではありますが、日常の忙しさとゆとりのなさから、「情緒を忘れた母親」は意外といるかも。トッコも肝に銘じておきたいですね。

 

最後は、「かかしの旅」です。一番最後に収録されているだけあって、とても希望の持てる作品です。いじめられっこの卓朗が、同じくいじめられっこの友人ヤスオの自殺をきっかけに家出をし、同じような境遇の仲間とともに過ごしている。そこから、先生や親、友人に手紙形式で過去から現在までの心境を語る、という作品です。何故希望を持てるのかと言うと、主人公の卓朗くんが「生きなきゃいけないと思ったから家出した。」と語っているから。学校にいた時には、クラスにいてもいなくても関係のない「かかし」のような存在だと自覚していた卓朗くんが、自らの存在意義を求めて前向きに生きようとしているから。この気持ちは泣けてくるし、「頑張れよ~」と応援したくなってしまう。こういう選択もありなんだな~と思います。義務教育という言葉に縛られて、行かなきゃいけない、と思い込む必要はないのかも。つらい時は逃げてもいいんだ、逃げた場所に希望があるかもしれないんだから。こう考えると精神的に楽ですね。

以前、娘の学校のママ友達と「自分の子供が学校でいじめられたらどうしよう???」という話題になったことがあったんです。そして、その時の彼女は実にきっぱりと「学校に行きたくない、と言ったら行かせない。後は学校がどう対応してくれるか見極める。」と言いました。「なるほど、そういう考えもあるのか。」と驚きましたが、一理あると思います。要は、親が子供を追い込んではいけない、ということでしょう。彼女の毅然とした態度と物言いは、トッコに大きな勇気を与えてくれました。

ただ、「親に相談」というプロセスを経ずに、子供がいきなり家出してしまうような、卓朗くんのようなケースは親にとって寂しい限りです。何故一言言ってくれなかったの?というかんじ。それとも中学生ぐらいになると親に相談なんて野暮なことはしなくなるということでしょうか?一番の相談相手ではなくとも、せめて2番手3番手の相談相手になれるぐらいの親子関係は普段から築いておきたいですね~。

 

他の作品もなかなか良かったです。唯一「ドロップ!」 だけは、ちょっと不思議でトッコには意味不明でしたが。中高生世代だけでなく、親世代も読んで考えてみるとよいと思います。