BlogMagazine-SoL -『ソル』-ママ&ワイフを楽しむおんなたち-hola_グレートバリアリーフ


新婚旅行で訪れたオーストラリアは雨季だった。
世界遺産である美しい海洋グレートバリアリーフへのクルージングは、風の強い曇天ではあったが、幸い雨には降られず、予定通りに行われた。
船はグレートバリアリーフに設置された人口浮き島ポンツーンを目指し、そこでダイビングやシュノーケリングを楽しむことができる。


出港まで船内に設置されたモニターから流されるPRビデオを見た。ビデオ内ではグレートバリアリーフの美しさと、それを堪能する様々なオプショナルツアーが紹介されている。
「ヘリコプターで空中からグレートバリアリーフを見てみませんか?忘れられない素敵な思い出を……」わ~。いいな~。
「お時間は約20分、お値段はお二人で40,000円」高っっ!!こんなの誰が乗るの!!


程なく、スタッフより出港のアナウンスがあった。
「本日は大変船が揺れやすくなっております。体調の優れない方は、デッキなど広いところでお過ごし下さい」
しっかり朝食を摂り酔い止めを服用してきた私達は余裕だった。


出港直後、私はトイレに立った。
揺れが激しく、足元がおぼつかない。早くも船酔いの症状を見せる女性達を横目にようようトイレに着くも、あまりの揺れにパンツをおろすこともままならない。
先ほどのスタッフのアナウンスを思い出す。
「狭い室内は非常に酔いやすいので、具合が悪くなってもトイレには絶対行かないように」


狭いトイレで揺られて多少気分の悪くなった私は席に戻らず、そのままデッキに向かって、風にあたることにした。デッキには、既にグロッキーの女性、それに付き添う男性が何組もおり、私もここで少し涼んでいれば、具合が良くなるだろうと思っていた。
が、それはとんだ楽観視だった。


船のへりに設けられた手摺に身体を預けているうち、みるみるこみ上げる吐き気。隣にいた女性からひったくるようにエチケット袋をもらい(彼女も具合悪そうだったのに)あっという間に朝食を全部戻した。
しかし、ムカムカはおさまらない。エチケット袋の容量はオーバーで、海に直接撒餌を行う。手すりに二の腕の肉を挟み、内出血というハプニングもあった。
ノースリーブワンピース一枚の身体に、強風による波飛沫が容赦なく打ちつける。髪も身体もしとどに濡れ、寒さと船酔いと嘔吐による疲れで、身も心もぼろぼろだ。


よく見ると私以外の女性は皆パートナーが付き添っているのに、私が身体を預けているのはアルミ製の大型ゴミ箱。しかも船の揺れと私の体重でどんどん移動していく頼りないやつ。
こんな状況で、私のパートナーは一体どこに……。朦朧とした意識の中、スタッフの声がする。

「○○さん、○○さんの奥さんはいらっしゃいますか!」
「はい、私です」力なく挙手。

「ご主人が中で心配しています!」


……で?


確かに、トイレに立ったきり数十分は経過している。しかし、なんでヤツは自分で探さず、スタッフを使いに出しているんだ!他の人は皆付き添っているのに~!!
が、あまりの船酔いに怒りの感情も湧かず「ここにいることを伝えて下さい……」


口元にエチケット袋を当てながらゴミ箱にもたれていると自然と頬を涙がつたう。
ああ、あとどれくらい乗っていなければならないんだろう。早く降ろしてほしい。帰りも風が強くて揺れるんだろうか。もう船になんて乗りたくない……。
「cheeco!」
聞きなれた声で私を呼ぶ人。見上げると主人だった。
「ここにいたんだね!帰りのヘリ、手配したからね!」


それは一番私が欲していた言葉。もう船に乗らなくてもいい!安心感が私を包みこむ。あんなに高いと文句を垂れていたヘリを手配してくれた主人の決断力に大いに感謝した。後から聞くと、共倒れになってしまう可能性が高かったため、主人なりに船酔いをしないよう頑張っていたらしい。


ようやく船は目的地に着き、しばらく横になった私は回復した。何よりヘリに乗れるということがカンフル剤になったようで、同じように具合の悪い奥様のために手配したのであろう夫婦とヘリに乗り込む頃には、すっかり元気になっていた。


サングラスをかけイヤホンをつけると、気分はジャック・バウアーである。
「クロエ!衛星の画像を端末に送ってくれ!!」などと叫びながら、ヘリの窓から手を出して写真撮影するほどのはしゃぎよう。つい2時間前までは死相が漂っていたとは思えない。


この一件以来すっかり三半規管が弱くなってしまったが、船内で見たPRビデオ通り「忘れられない思い出」になったことは間違いなかった。


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written by cheeco