BlogMagazine-SoL -『ソル』-ママ&ワイフを楽しむおんなたち-リヨン


パリから車を走らせて、一路南へ向かったその旅の最初の目的地はリヨンだった。

リヨンは人口45万人ほどの小さな町だが、いわずと知れた美食の町。

旧市街に立ち並ぶ庶民派ビストロで食の奥深さを噛みしめよう。名物のクネルをワインと共にお腹いっぱい頂こう。高速道路を走り抜ける間も私たちのハト胸は期待に膨らみっぱなしだった。


さあ、その向こうの橋を渡れば旧市街、というところまできて、オットが異変に気がついた。


「ギアが噛まない……」


交差点の真中からなんとか路肩に車を寄せ、あれやこれやとギアチェンジを試してみるもまるで駄目。公衆電話からレンタカー業者に連絡をしてはみたが、英語の全く話せない相手にこちらの拙いフランス語で正確な状況を説明するのは至難の業であり、どうもきちんと通じたとは思えない。


さて、どうしたらよいものか。文字通りの立ち往生である。


そのとき私たちはよっぽどトホホな顔をしていたのだろう。
目の前のピアノ屋から、もじゃもじゃあたまの店主が出てきて、どうしたのかと声をかけてきた。事情を説明すると彼は大きく頷き、うわっぱりのポケットから取り出した携帯電話をふってみせた。どうやら代わりに連絡をとってくれるらしい。


しばし業者と交渉をした彼は、じきにレッカー車が来ること、代替車が手配されること、などを私たちに伝えた。そして、礼を述べると、気にするなというように肩をすくめ、くわえ煙草で店に戻り、軽妙なテンポで売り物のピアノを弾きはじめたのだった。

その仕草がいかにもフランス人らしくお洒落でウイットに富んでいて、彼の心遣いと親切さが言葉にしなくてもじんわりとしみた。


結局、その後の手続きに時間をとられ、日暮れまでにアヴィニヨンに着きたかった私たちには、リヨンを堪能することが叶わなかった。しかし、別れ際、窓越しに礼を告げた私たちに片手をあげて応えてくれたあのピアノマンの姿は、リヨンでのよき思い出として今でも脳裏に鮮やかに焼きついているのである。



written by コマツマコ