府中市美術館では先日まで、
「春の江戸絵画まつり」のファイナルとして、
“長沢蘆雪”展が開催され、連日大盛況でしたが。
現在は、時代もジャンルもガラッと変わって、
“松本陽子 宵の明星を見た日”が開催されています。
出展数は、作家本人とともにリストアップしたという45点。
東京国立近代美術館や神奈川県立近代美術館、
愛知県美術館や京都国立近代美術館、個人蔵など、
全国各地から松本さんの代表作が集結しています。
その冒頭を飾るのは、《植物に視つめられる私》。
今年5月に90歳を迎えた今なお現役で描き続ける松本さんの最新作です。
青というと、一般的には、
爽やかで清々しく、若々しい印象があります。
「青春」という熟語にも使われるくらいですし。
しかし、松本さんの描いた青は、その逆の印象といいましょうか。
情念のこもったような深淵で底なしの青でした。
さて、本展のハイライトともいえるのが、最初の展示室です。
こちらで紹介されているのは、松本さんの代名詞であるピンクを主調とした絵画群。
2m超えの大作約10点が1室を埋め尽くす様は圧巻も圧巻です。
松本さんがこの作風に行き着く転機となったのは、
1967年から翌年にかけてのアメリカ滞在だったそう。
当時、アメリカで隆盛していた抽象表現主義に大きな衝撃を受けたのでした。
さらに、当時まだ日本では普及していなかったアクリル絵具と、
綿のロウカンヴァ
そして、帰国から10年ほどの年月を重ねて、ついに独自の画法に辿り着いたのでした。
では、その画法について簡単に説明いたしましょう。
まずは、巨大なカンヴァスを床置きします。
水で溶いたアクリル絵具を太い筆で伸ばし、
その上にまた、絵具と絵具、絵具とメディウムを混ぜ、
しかし、アクリル絵具は乾燥が早いため、
朝に制作をして、8時間もするとそれ以上描けなくなるそうです。
また、かがんだ体勢でぶっ通しで作業するため、体力的にも8時間が限界。
そう、これらの大作はすべて1日(=8時間)で制作されているのです。
もちろんすべてが納得いく作品になるわけはなく。
制作した翌日に作品を立てて観て、失敗と感じたらそれで終わりなのだとか。
その制作スタイルだけ聞くと、アクションペインティングに近いものがあります。
ちなみに。
松本さんのピンクの大作を前にすると、
朝日や夕日、銀河といったものを連想しましたが、
松本さん曰く、“作品にはまったくイメージがない”のだそう。
松本さんが生み出した色、ただそれだけです。
確かに、大自然の美しさに感動した際には
“何かを表しているから美しい”とは思わないわけで。
ただ純粋に、目の前にある色や光景そのものに美を見出しているわけです。
そういう意味で、作品を前にすると、
抽象絵画を観ている感覚というよりも、
大自然に向き合っている感覚がありました。
なお、ピンクの作品群と同じく、
グリーンの作品群も、特にイメージは無いのだそう。
ただし、ピンクよりもグリーンのほうが、
森や山、田んぼ、植物など、自然を想起しやすい色であるため、
“松本さんのグリーン”を確立するのには苦心したそうです。
ちなみに。
本展では他にも、モノクロを基調とした作品も紹介されていました。
これらの作品が描かれたのは、2003年のこと。
この年に日本を襲った冷夏により、
アクリル絵具が1日で乾ききらなかったのだそう。
そこで例外的に2日に渡って、白や黒の作品を制作していたそうです。
天候や自然が如実に影響するというのは、松本さんの作風ならではですね。
┃会期:2026年5月23日(土)~7月12日(日)
┃会場:府中市美術館
┃https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakuten/Yoko_Matsumoto.html







