工芸と天気展-石川県ゆかりの作家を中心に- | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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国立工芸館が金沢に移転して、今年で丸5年。

それを記念し、今年1年をかけて、

さまざまな移転開館記念展が開催されてきました。

そのフィナーレを飾るのが、

移転開館5周年記念 令和6年能登半島地震復興念 工芸と天気展-石川県ゆかりの作家を中心に-

天気を切り口にした新感覚の工芸展です。

 

工芸と天気展:石川県ゆかりの作家作品
 

 

工芸と天気。

そう聞いて、多くの方が頭に?マークを浮かべたことでしょう。

両者には特に接点が無いような気もします。

 

本展は、2章構成。

まず1章は、「天気と生きる、天気とつくる」です。

北陸地方には、『弁当忘れても傘忘れるな』という言い伝えがあるそう。

それほどまでに天気が変わりやすい地域で、

石川県を拠点にする工芸の作家たちは、制作を行っています。

当然ながら、その技法と天気は無関係ではいられません。

 

例えば、石川県を代表する工芸の一つ輪島塗。

 

工芸と天気展:漆器の器5点
角偉三郎《練金文合鹿椀》 1992年 国立工芸館蔵
 
 
その産地である輪島市は、一年を通じて湿度が高いという気候的特徴があります。
実は、高温多湿の環境は、漆の乾燥にもっとも適しているのだそう。
つまり、輪島市は漆の乾燥に理想的な地域というわけです。
 
とはいえ、天気がころころ変わる環境は、
漆芸の全ての工程にとって理想的というわけではないようで。

金沢出身の漆芸の人間国宝・松田権六は、その著書『うるしの話』の中でこう述べています。

 

一日のうちで降ったり晴れたり天気が定まらない季節には油断すると、

下地の調合が天候に順応しないで狂ってしまうことがある。

下地は毎日使うごとに調合するものだが、

その配合を誤ると堅くなったり柔かくなったりして、

下から上まで硬軟のサンドイッチができてしまう。

 

毎日、天気に左右されながら制作していたのですね。

その事実を知った今、松田権六をはじめ、

石川ゆかりの作家の作品を観る目は確実に変わりました。

 

image

松田権六《蒔絵鷺文飾箱》 1961年 国立工芸館蔵

 

 

また例えば、金沢が国内シェアほぼ100%を誇る金箔。

 

工芸と天気展:陶製皿に表現された気候
𠮷田美統《釉裏金彩牡丹文飾皿》 2017年 国立工芸館蔵
 
 

光を透かすほどの極薄の金箔は、

ほんのわずかな静電気でも扱いにくくなるのだそう。

湿度が高いと静電気は発生しにくくなります。

つまり、一年を通じて湿度が高い金沢は、

金箔を作るのにも適した地域というわけなのです。

 

今まで意識したことはなかったですが、
確かに、工芸と天気には深い関係性がありました。
なお、金沢を代表する伝統的工芸品のひとつ、
加賀友禅もやはり気候とは深い関係があるようで。

 

着物、鳥、花模様

木村雨山《一越縮緬地花鳥文訪問着》 1934年 国立工芸館蔵 ※前期展示

 

 

加賀友禅の制作の一工程に、「友禅流し」というものがあります。

友禅流しとは、川の水で余分な染料や糊を洗い流すもの。

水が冷たければ冷たいほど、鮮やかな発色となるそうで、

冬の浅野川で行われる友禅流しは、金沢の風物詩となっていました。

しかし、水質汚染や気候変動による紫外線量増加などの理由で、

現在は自然の河川ではほとんど行われず、人工川で友禅流しが行われているそうです。

気候の変化によって、伝統工芸の工程も変化していたとは知りませんでした。

ちなみに、本展で紹介される加賀友禅の多くが、

加賀友禅の人間国宝に認定された木村雨山によるもの。

彼の名は師匠である上村雲嶂の「雲」の字から「雨」を、

「嶂」から「山」をそれぞれ取って名付けたとされています。

まさに、天気の子(←?)。

本展の出展作家にふさわしい人物といえましょう。

 

 

さてさて、続く2章は、「空を見上げて/春を待つ」。

 

工芸と天気展の展示風景
展示風景

 

 

こちらでは、雲や雪といった北陸の空もようが、

モチーフとなった工芸作品の数々が紹介されています。

二塚長生の《友禅訪問着「夕刻への雲間」》や、

本展のメインビジュアルである番浦省吾の漆工作品のように、

 

工芸と天気展:訪問着「夕刻への雲間」
二塚長生《友禅訪問着「夕刻への雲間」》 2024年 個人蔵
 

工芸と天気展:空模様を表現した二つの作品

左)番浦省吾《双象》 1972年 右)番浦省吾《海どり》 1973年 いずれも国立工芸館蔵

 
 

見るからに空模様を表現した作品ももちろんありましたが。

中田真裕さんの《雲の裏》のように、

抽象的に表現された作品も少なくありませんでした。

 

工芸と天気展:緑の陶器のオブジェ
中田真裕《雲の裏》 2023年 国立工芸館蔵
 
 
北陸の天気は移り変わりやすいからこそ、
太陽や雨などのモチーフを直接的に表現するのではなく。

うつろう空模様の雰囲気や、それに対する心情といったものを、

石川県ゆかりの作家の皆さまは表現しているのかもしれません。

 

なお、本展の出展作の中でもっとも抽象的だったのが、

この秋、紫綬褒章を受章された水口咲さんによる《乾漆箱「新雪」》です。

 

赤い乾漆箱「新雪」
水口咲《乾漆箱「新雪」》 2021年 個人蔵
 
 

新雪と言いながらも、真っ赤。

“どこに雪要素が??”と一瞬戸惑いましたが、

作品を真横から観た時に、ストンと落ちるものがありました。

 

赤い漆芸作品「新雪」

水口咲《乾漆箱「新雪」》 2021年 個人蔵

 

 

ふっくらとしたそのフォルムは、
屋根の上などに降り積もった新雪のよう。
触るとほろほろと崩れてしまいそうな繊細な雰囲気も、新雪を彷彿とさせました。
 
 
工芸と天気。
異色の展覧会かと思いきや、
むしろ、これまで開催されてこなかったのが、
不思議なほどに、両者の関係性には深い結びつきがありました。
本展は基本的には、石川県に特化していましたが、
是非、第2弾は日本各地の「工芸と天気」も掘り下げて欲しいものです。

星星

 

 

ちなみに。

国立工芸館の1階では現在、令和6年能登半島地震と、

奥能登豪雨からの復興を支援するための企画展が同時開催中。

都内の10数施設のコレクションから名品の数々が特別に出展されています。

 

工芸と天気展の展示品
展示風景

 

 

それらの中には、国宝の《秋草文壺》や、

土偶界人気No.1の《遮光器土偶》(重要文化財)も。

この春に開催されていた関西で開催されていた、

国宝展の数々にも負けず劣らずのラインナップとなっています。

 

秋草文壺(国宝)の画像

国宝《秋草文壺》 平安時代11~12世紀 慶応義塾蔵

 

遮光器土偶:重要文化財
重要文化財《遮光器土偶》 縄文時代(晩期)・前1000~前400年 東京国立博物館蔵

 

ちなみに。

能登の方は、観覧無料!

展覧会の収入は、能登の文化を復興させるために活用されるそうです。

 

 

 ┃会期:2025年12月9日(火)~2026年3月1日(日)

 ┃会場:国立工芸館

 ┃https://www.momat.go.jp/craft-museum/exhibitions/565

 

 

 

 

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