もしも、芸術家たちが漫才をしたら・・・
こんな感じのネタを披露するのかもしれません。
それでは、皆様、どうぞ芸術漫才をお楽しみください!
孤雁「戸張孤雁[1]です」
荻原「荻原守衛[2]です」
孤雁「わらおぎこがんです。よろしくお願いします」
荻原「お願いします」
孤雁「僕、この前ね、初めてブロンズ像を作ったんですよ[3]」
荻原「アトリエで?」
孤雁「うん」
荻原「生まれてはじめてってこと?」
孤雁「そうそうそうそう」
荻原「へえ」
孤雁「やってみたんですけどね、結構難しかったですね」
荻原「ブロンズ像の制作が?」
孤雁「うん」
荻原「やった感想ってこと?」
孤雁「うん。まぁ、そうだね」
荻原「あぁ、いきなりは難しいものなんすねえ」
孤雁「当たり前だけど、絵を描くのとは全然違うよね」
荻原「改めてだけど、ブロンズ像ってどうやって作るんだっけ?」
荻原「自分で?」
孤雁「自分で」
荻原「自分で一から作るってこと?」
孤雁「うん、そりゃそうだよね。原型がどこかに売ってるなんてことはないからね」
荻原「一般的に?」
孤雁「一般的に」
荻原「うんうんうん」
孤雁「その後にね、今度は粘土の原型をもとにして石膏型を作るんですよね」
荻原「原型と同じ形の?」
孤雁「原型と同じ形の」
荻原「へえ」
孤雁「だって原型と違ったら、意味がなくなるからね」
荻原「あ、原型を作った?」
孤雁「原型を作った」
荻原「確かにね」
孤雁「で、その後に、石膏型から作った鋳型に溶けた金属を流し込むんですけど。
初めて作った時、なんか僕、無意識的にそれを手で触ろうとしちゃったんですよね」
荻原「ほお」
孤雁「そしたら、それを見ていた朝倉先生[4]、何て言ったと思います?」
荻原「口で?」
孤雁「(無視して)「あれ?温泉にでも入るつもり?」ってボケてきたんですよ(笑)」
荻原「口で?」
孤雁「(無視して)いやぁ、それで僕もついつい、
「あ、はい。どれくらいの湯加減なのかな」ってボケに乗っかっちゃったんですよね(笑)」
荻原「口で?」
孤雁「お前、うるせえな、このやろう!
なんなんだ、要らねえ質問ばっかしやがって、お前!」
荻原「はぁ?」
孤雁「空質問(からしつもん)が多いわ」
荻原「空質問?」
孤雁「しなくていいムダな質問のこと」
荻原「いや、してました俺、今?」
孤雁「してたよお前、多すぎるわ」
荻原「回数が?」
孤雁「回数が!それそれそれそれそれ!」
荻原「え?」
孤雁「本当に空質問やめてくんない?」
荻原「言うのを?」
孤雁「言うのを、だよ!」
荻原「うん」
孤雁「言うのを、しかねえだろこんなの!それ、本当に不愉快になるんだよね」
荻原「気分が?」
孤雁「気分が、だ!」
荻原「まぁねぇ」
孤雁「なんだお前、話の邪魔してぇのか?」
荻原「いやいや、めちゃくちゃ話聞きたいよ」
孤雁「本当かよ、お前」
荻原「でもやっぱり一番聞きたいのは、制作する上で一番キツいのは何?ってこと。」
孤雁「あぁ、それはもう、結核の病弱な身体[5]で制作するってことですよね」
荻原「一番キツいのが?」
孤雁「そうだよ!」
荻原「へぇ」
孤雁「お前がそう聞いたんだろ、今」
荻原「キツいって、10段階でどれくらいキツい?」
孤雁「まぁ、最近は少し体調が落ち着いているほうなんですけども、それでも9かな」
荻原「10段階で?」
孤雁「そうだっつってんだよ、お前!」
荻原「へぇ」
孤雁「お前が10段階で聞いたんだろ、今!」
荻原「あと、もう1個だけ質問していい?」
孤雁「じゃあ、いいですよ」
荻原「もし、僕が「もう1個だけ質問していい?」と質問したら、あなたは「はい」と答えますか?」
孤雁「どういうことだよ!「もう1個だけ質問していい?」に対して、
僕は「はい」と答えるわけだから・・・って、なんだこの論理クイズみたいなのは?!
俺は正直村の住人か!」
荻原「今、入院してんの?」
孤雁「はぁ?」
荻原「今、結核で入院してんの?」
孤雁「入院してるわけねえだろ、お前!俺、じゃあ何で今漫才してんだよ、なぁ?」
荻原「漫才してるって、ここで?」
孤雁「ここで!」
荻原「うん」
孤雁「舞台の袖から「どうもー」って運ばれてきてないでしょ?」
荻原「ストレッチャーで?」
孤雁「ストレッチャーで!出てきてなかったよね?」
荻原「いやぁ、ごめん、ちょっと見てなかったな俺」
孤雁「見てなくてもわかるだろ、そんなの。見て今、無いじゃん?」
荻原「ストレッチャーが?」
孤雁「ストレッチャーが!今、無いよね?」
荻原「無いね」
孤雁「そうでしょ?で、俺を運んできた人が、漫才中にまた戻したわけでもないじゃん?」
荻原「ストレッチャーを?」
孤雁「ストレッチャーを!今、舞台上に無いよね?」
荻原「無いね」
孤雁「そうでしょ!ってことはそもそ俺は入院先から運ばれてきてないんだよ!」
荻原「ストレッチャーで?」
孤雁「ストレッチャーだよ、ずっと!!ストレッチャーの話しかしてねえだろ、今!
こんなにストレッチャー、ストレッチャーって言うって、ドラマ『救命病棟24時』かよ」
荻原「……まるで?」
孤雁「まるで!まるで、だ!いやいや、とにかくね。
これから俺も本腰を入れて作っていこうと決めたんですよ」
荻原「ブロンズ像を?」
孤雁「ブロンズ像を!
ていうのも、お前の作ったあの《女》[6]を観て全身にビリビリって走ったのよ」
荻原「電流が?」
孤雁「電流が!俺もあんな作品を作ってみたいと思ったわけ」
荻原「絵画で?」
孤雁「絵画で!絵画じゃない!ブロンズ像で!」
荻原「あ、ブロンズ像で?」
孤雁「ブロンズ像で作るの!」
荻原「俺が残した粘土を使って[7]?」
孤雁「お前が残した粘土を使って!それで型を作ってね」
荻原「石膏で?」
孤雁「石膏で!その型に金属を流し込んで」
荻原「キンキンに冷やした金属を?」
孤雁「キンキンに冷やした金属を!
あ、キンキンに冷やしたじゃない!ドロドロに溶かした金属を!」
荻原「あ、ドロドロに溶かすんだ?」
孤雁「ドロドロに溶かさないと流し込めないだろ!」
荻原「石膏の型に?」
孤雁「石膏の型に!」
荻原「あぁ」
孤雁「で、冷えた後に型から取り外せば像が完成するんだよ」
荻原「ブロンズの?」
孤雁「ブロンズの!ブロンズのじゃない!あ、合ってるわ。ブロンズので合ってるわ。
これ難しいな、これ!瞬時にヒヨコのオスとメスを見分けるみたいになってるよ!」
荻原「……言うなれば?」
孤雁「言うなれば!言うなれば、だ!
もういいわ、会話にならないんで止めさしてもらいます」
荻原「漫才を?」
孤雁「漫才を、だ!もういいよ!いい加減にしろ!どうもありがとうございました」
[1]戸張孤雁(1882~1927)
彫刻、絵画、版画、挿絵と幅広いジャンルで活躍した芸術家。
留学先のニューヨークで荻原碌山と出会い、帰国後も友情を育む。
本名は志村亀吉。
[2]荻原碌山(1879~1910)
画家を目指して渡欧するも、ロダンの彫刻に感化され、彫刻家を志す。
ロダンに直接学んだ初めての日本人。“日本近代彫刻の父”とも。
30歳という若さで亡くなったため、現存している彫刻作品はわずか15点。
しかし、そのうちの2点が重要文化財に指定されている。
本名は荻原守衛。号の「碌山」は夏目漱石の『二百十日』の登場人物“碌さん”にちなむ。
[3]渡米してしばらくは、絵画や挿絵を描いていたが、30代の手前から彫刻を作るように。
[4]孤雁は「東洋のロダン」と呼ばれた朝倉文夫のもとで塑像を学んだ。
[5]渡米中に結核となり、その後45歳で亡くなるまで結核と闘い続けた。
結核になってからは、常に死を意識していたという
[6]荻原碌山の遺作であり、日本近代彫刻の幕開けと言われる作品。
岡田みどりという女性がモデルを務めたことが伝えられているが、
荻原が思いを寄せ続けた新宿中村屋の女主人、相馬黒光が心象のモデルとされる。
[7]孤雁は荻原の急逝後、絶作の《女》に心を打たれ、
荻原が残した粘土を貰い受けて、本格的に彫刻を制作するようになった。

