エントリーNo.0014 わらおぎこがん(荻原碌山 戸張孤雁) | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

もしも、芸術家たちが漫才をしたら・・・

こんな感じのネタを披露するのかもしれません。
それでは、皆様、どうぞ芸術漫才をお楽しみください!

 

 

 

孤雁「戸張孤雁[1]です」

 

荻原「荻原守衛[2]です」

 

孤雁「わらおぎこがんです。よろしくお願いします」


荻原「お願いします」


孤雁「僕、この前ね、初めてブロンズ像を作ったんですよ[3]


荻原「アトリエで?」


孤雁「うん」


荻原「生まれてはじめてってこと?」

 

孤雁「そうそうそうそう」

 

荻原「へえ」
 

孤雁「やってみたんですけどね、結構難しかったですね」
 

荻原「ブロンズ像の制作が?」


孤雁「うん」
 

荻原「やった感想ってこと?」

 

孤雁「うん。まぁ、そうだね」

 

荻原「あぁ、いきなりは難しいものなんすねえ」
 

孤雁「当たり前だけど、絵を描くのとは全然違うよね」


荻原「改めてだけど、ブロンズ像ってどうやって作るんだっけ?」

 

孤雁「あの、まず最初にね。粘土で原型を作るんですよ」

 

荻原「自分で?」
 

孤雁「自分で」


荻原「自分で一から作るってこと?」


孤雁「うん、そりゃそうだよね。原型がどこかに売ってるなんてことはないからね」


荻原「一般的に?」
 

孤雁「一般的に」
 

荻原「うんうんうん」

 

孤雁「その後にね、今度は粘土の原型をもとにして石膏型を作るんですよね」


荻原「原型と同じ形の?」
 

孤雁「原型と同じ形の」
 

荻原「へえ」
 

孤雁「だって原型と違ったら、意味がなくなるからね」


荻原「あ、原型を作った?」


孤雁「原型を作った」
 

荻原「確かにね」
 

孤雁「で、その後に、石膏型から作った鋳型に溶けた金属を流し込むんですけど。

   初めて作った時、なんか僕、無意識的にそれを手で触ろうとしちゃったんですよね」

 

荻原「ほお」
 

孤雁「そしたら、それを見ていた朝倉先生[4]、何て言ったと思います?」


荻原「口で?」

 

孤雁「(無視して)「あれ?温泉にでも入るつもり?」ってボケてきたんですよ(笑)」


荻原「口で?」


孤雁「(無視して)いやぁ、それで僕もついつい、

  「あ、はい。どれくらいの湯加減なのかな」ってボケに乗っかっちゃったんですよね(笑)」


荻原「口で?」
 

孤雁「お前、うるせえな、このやろう!

   なんなんだ、要らねえ質問ばっかしやがって、お前!」


荻原「はぁ?」


孤雁「空質問(からしつもん)が多いわ」

 

荻原「空質問?」


孤雁「しなくていいムダな質問のこと」

 

荻原「いや、してました俺、今?」

 

孤雁「してたよお前、多すぎるわ」
 

荻原「回数が?」
 

孤雁「回数が!それそれそれそれそれ!」
 

荻原「え?」


孤雁「本当に空質問やめてくんない?」
 

荻原「言うのを?」
 

孤雁「言うのを、だよ!」
 

荻原「うん」
 

孤雁「言うのを、しかねえだろこんなの!それ、本当に不愉快になるんだよね」

 

荻原「気分が?」


孤雁「気分が、だ!」
 

荻原「まぁねぇ」

 

孤雁「なんだお前、話の邪魔してぇのか?」
 

荻原「いやいや、めちゃくちゃ話聞きたいよ」
 

孤雁「本当かよ、お前」
 

荻原「でもやっぱり一番聞きたいのは、制作する上で一番キツいのは何?ってこと。」
 

孤雁「あぁ、それはもう、結核の病弱な身体[5]で制作するってことですよね」


荻原「一番キツいのが?」


孤雁「そうだよ!」

 

荻原「へぇ」
 

孤雁「お前がそう聞いたんだろ、今」
 

荻原「キツいって、10段階でどれくらいキツい?」
 

孤雁「まぁ、最近は少し体調が落ち着いているほうなんですけども、それでも9かな」


荻原「10段階で?」


孤雁「そうだっつってんだよ、お前!」

 

荻原「へぇ」
 

孤雁「お前が10段階で聞いたんだろ、今!」
 

荻原「あと、もう1個だけ質問していい?」
 

孤雁「じゃあ、いいですよ」

 

荻原「もし、僕が「もう1個だけ質問していい?」と質問したら、あなたは「はい」と答えますか?」

 

孤雁「どういうことだよ!「もう1個だけ質問していい?」に対して、

   僕は「はい」と答えるわけだから・・・って、なんだこの論理クイズみたいなのは?!

   俺は正直村の住人か!」


荻原「……まるで?」

 

孤雁「まるで!まるで、だ!」

 

荻原「今、入院してんの?」


孤雁「はぁ?」
 

荻原「今、結核で入院してんの?」
 

孤雁「入院してるわけねえだろ、お前!俺、じゃあ何で今漫才してんだよ、なぁ?」


荻原「漫才してるって、ここで?」


孤雁「ここで!」

 

荻原「うん」
 

孤雁「舞台の袖から「どうもー」って運ばれてきてないでしょ?」
 

荻原「ストレッチャーで?」


孤雁「ストレッチャーで!出てきてなかったよね?」
 

荻原「いやぁ、ごめん、ちょっと見てなかったな俺」

 

孤雁「見てなくてもわかるだろ、そんなの。見て今、無いじゃん?」
 

荻原「ストレッチャーが?」
 

孤雁「ストレッチャーが!今、無いよね?」


荻原「無いね」

 

孤雁「そうでしょ?で、俺を運んできた人が、漫才中にまた戻したわけでもないじゃん?」


荻原「ストレッチャーを?」


孤雁「ストレッチャーを!今、舞台上に無いよね?」
 

荻原「無いね」
 

孤雁「そうでしょ!ってことはそもそ俺は入院先から運ばれてきてないんだよ!」
 

荻原「ストレッチャーで?」

 

孤雁「ストレッチャーだよ、ずっと!!ストレッチャーの話しかしてねえだろ、今!

  こんなにストレッチャー、ストレッチャーって言うって、ドラマ『救命病棟24時』かよ」
 

荻原「……まるで?」


孤雁「まるで!まるで、だ!いやいや、とにかくね。

   これから俺も本腰を入れて作っていこうと決めたんですよ」
 

荻原「ブロンズ像を?」
 

孤雁「ブロンズ像を!

  ていうのも、お前の作ったあの《女》[6]を観て全身にビリビリって走ったのよ」


荻原「電流が?」


孤雁「電流が!俺もあんな作品を作ってみたいと思ったわけ」
 

荻原「絵画で?」


孤雁「絵画で!絵画じゃない!ブロンズ像で!」

 

荻原「あ、ブロンズ像で?」
 

孤雁「ブロンズ像で作るの!」
 

荻原「俺が残した粘土を使って[7]?」


孤雁「お前が残した粘土を使って!それで型を作ってね」


荻原「石膏で?」
 

孤雁「石膏で!その型に金属を流し込んで」
 

荻原「キンキンに冷やした金属を?」
 

孤雁「キンキンに冷やした金属を!

  あ、キンキンに冷やしたじゃない!ドロドロに溶かした金属を!」
 

荻原「あ、ドロドロに溶かすんだ?」
 

孤雁「ドロドロに溶かさないと流し込めないだろ!」
 

荻原「石膏の型に?」


孤雁「石膏の型に!」
 

荻原「あぁ」
 

孤雁「で、冷えた後に型から取り外せば像が完成するんだよ」


荻原「ブロンズの?」
 

孤雁「ブロンズの!ブロンズのじゃない!あ、合ってるわ。ブロンズので合ってるわ。

   これ難しいな、これ!瞬時にヒヨコのオスとメスを見分けるみたいになってるよ!」

 

荻原「……言うなれば?」
 

孤雁「言うなれば!言うなれば、だ!

   もういいわ、会話にならないんで止めさしてもらいます」

 

荻原「漫才を?」
 

孤雁「漫才を、だ!もういいよ!いい加減にしろ!どうもありがとうございました」

 

 

[1]戸張孤雁(1882~1927)

  彫刻、絵画、版画、挿絵と幅広いジャンルで活躍した芸術家。

  留学先のニューヨークで荻原碌山と出会い、帰国後も友情を育む。

  本名は志村亀吉。

 

[2]荻原碌山(1879~1910)

  画家を目指して渡欧するも、ロダンの彫刻に感化され、彫刻家を志す。

  ロダンに直接学んだ初めての日本人。“日本近代彫刻の父”とも。

  30歳という若さで亡くなったため、現存している彫刻作品はわずか15点。

  しかし、そのうちの2点が重要文化財に指定されている。

  本名は荻原守衛。号の「碌山」は夏目漱石の『二百十日』の登場人物“碌さん”にちなむ。

 

[3]渡米してしばらくは、絵画や挿絵を描いていたが、30代の手前から彫刻を作るように。

 

[4]孤雁は「東洋のロダン」と呼ばれた朝倉文夫のもとで塑像を学んだ。

 

[5]渡米中に結核となり、その後45歳で亡くなるまで結核と闘い続けた。

  結核になってからは、常に死を意識していたという

 

[6]荻原碌山の遺作であり、日本近代彫刻の幕開けと言われる作品。

  岡田みどりという女性がモデルを務めたことが伝えられているが、

  荻原が思いを寄せ続けた新宿中村屋の女主人、相馬黒光が心象のモデルとされる。

 

 

 

[7]孤雁は荻原の急逝後、絶作の《女》に心を打たれ、

  荻原が残した粘土を貰い受けて、本格的に彫刻を制作するようになった。





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