どうやら滑り込みでアップすることが出来ました!
冒頭から何をそんなに焦っているかと、
今回ご紹介するのは、1月におススメしたい美術展。
(開催期間は、3月20日まであります)
東京国立近代美術館で開催中の “特集 国吉康雄 ―寄託作品を中心に―” です。
国吉康雄(1889~1953)は、20世紀前半に大活躍した洋画家です。
“…えっ、そんな画家いましたっけ?”
多くの人にとって、ちょっと耳馴染みのない画家かもしれません。
それもそのはず、彼が活躍したのは、
ここ日本ではなくて、海を越えた向こうのアメリカ。
17歳で渡米した彼は、人生の大半をアメリカで過ごしました。
持前の才能と、人一倍の努力でもって、国吉はアメリカを代表する画家となります。
しかも、最終的にはアメリカの美術家組合の初代会長を務めるまでに至ります。
まさにアメリカンドリーム!
ちなみに、今現在、メトロポリタン美術館に作品が常設展示されている
唯一の日本人画家なのだとか。
…で、一体、この美術展のどこが一月におススメしたい点なのでしょうか。
それは、これほど一月、つまり新春に相応しい美術展はないからです。
一体、どういうことでしょうか?
まずは、左上の 《バーガンディー》 という絵をご覧下さいませ。
この作品に限らず、国吉康雄の描く女性の多くは、
このように何とも言えない物憂げな表情を浮かべています。
お世辞にも、幸の多そうな女性とは言えません。
今回、このような国吉独特の美人画を、しばらく眺めていたら、
僕の頭の中にある曲が浮かんできました。
♪二人の恋は 終わったのね
許してさえくれない 貴方
サヨナラと顔も見ないで
去っていた男の心
楽しい夢のようなあの頃を思い出せば
サン・トワ・マミー
悲しくて目の前が暗くなる サン・トワ・マミー
ご存じ、「サン・トワ・マミー」です。
越路吹雪、忌野清志郎、最近ではゴマキまでがカバーした 【シャンソン】 の名曲です。
国吉康雄が描く女性に漂う独特の気だるさ、倦怠感。
ちょっとオシャレに言うなら、メランコリー。
その空気感は、どことなく 【シャンソン】 の雰囲気に通じるところがあります。
そこで、今回は、 【シャンソン】 をキーワードに国吉康雄の作品を紐解くことにしました。
新春に 【シャンソン】 。
これぞ、まさに新春シャンソンショー。
…鐘の音が一つしかならなさそうなギャグです。
とは言え、これを言いたいがためだけに、
【シャンソン】 をキーワードにしたわけではありません。ご安心を。
いきなり 【シャンソン】 の話題、しかも、越路吹雪の名前まで出てきたわけで、
おそらくまた僕に年齢詐称疑惑が浮上していることでしょう。
断わっておきますが、僕の中での 【シャンソン】 のイメージは、
『紅の豚』 のジーナかWAHAHA本舗の梅ちゃん、はたまた
“♪コーヒー 紅茶にステイン” くらいなものでした。はい。
そういうわけもあって
“ 【シャンソン】 をキーワードにするのは、いかがなものだろう?” と
自分でも不安を抱えながら、リサーチを開始してみたところ、意外な事実が!
昨年には、フランスの国民的 【シャンソン】 歌手エディット・ピアフの伝記的映画
“エディット・ピアフ~愛の賛歌~” が公開され話題を呼んでいたり、
下積み生活20年の 【シャンソン】 歌手クミコがブレイクしたりと、
実は今、静かに 【シャンソン】 ブームが起こっているのだそうです。
【シャンソン】 がブームとなるのは、実に50年ぶりのことだとか。
ちなみに、越路吹雪さんや淡谷のり子さんが活躍したのが、その時。
時代を感じますねぇ。
さて、 【シャンソン】 ブームが起こる時というのは、一つの特徴があるそうです。
それは、世の中が不安な時代であるということ。
今現在が不安な時代であるのは言うまでもありませんね。
そして、50年前というのも、戦後の不況真っただ中の不安な時代だったそうです。
どうやら 【シャンソン】 には、人々の不安を解消するパワーがあるらしいのです。
そして、今回ご紹介する国吉康雄もまた、
そのように社会が不安な時代にヒットした画家だったのです。
彼がアメリカでその地位を築いたのは、1930年代のこと。
この頃、アメリカは大きな不況に見舞われていました。
ブルーマンデー。
1929年に起きた世界恐慌の影響です。
国吉の絵は、そんな不安な時代に生きる人々に希望を与えたのでした。
例えば、彼の代表作である 《デイリー・ニュース》 (写真・中央)という作品。
この絵に描かれているのは、娼婦。
言い方は悪いですが、社会的な立場は下も下な職業。
そんな女性が左手に何やら持っています。
それは “デイリー・ニュース” という名の新聞。
この新聞、日本でいうなら 『東スポ』 や 『夕刊フジ』 のようなタブロイド紙。
彼女はそのように、新聞を読んでまで、きちんと社会に関わろうとしているのです。
“そりゃ、俺たちも頑張らなアカン!”
…と関西弁で言ったわけではないでしょうが、当時のアメリカの人々は、
国吉のこの絵に勇気づけられたのだそうです。
国吉康雄の絵の魅力は、このように一枚の絵の中に、きちんと人の人生が詰まっていること。
そんなところにも、“人生を語る3分芝居” とも言われる
【シャンソン】 との共通点が見てとれます。
国吉康雄の作品には、もう一つ大きな魅力があります。
それは、今回この日記でご紹介している3枚の絵を見ていただければ、
おわかりになると思いますが、その独特の茶色の色遣いです。
【シャンソン】 の名曲に例えるなら、「枯葉」のような茶色。
実際に目のあたりにすると、その何とも言えない絶妙な風合いに、
思わず吐息が漏れてしまいそうになります。
彼にしか出せなかったこの茶色は、 “クニヨシ・ブラウン” と呼ばれ、アメリカで称賛されました。
というのも、この “クニヨシ・ブラウン” は、
アメリカ人の大好きなマホガニーの色によく似ているのです。
このマホガニーと言うのは、欧米の最高級家具材。
日本でいうところのヒノキや桐のようなもの。
世界恐慌のせいで貧困に苦しんでいたアメリカ人は、
マホガニーのような “クニヨシ・ブラウン” に、憧れを抱いていたのかもしれません。
では、最後に、写真右の一枚をご紹介いたしましょう。
これは、今回の展示の目玉の一枚。
《誰かが私のポスターを破った》 です。
意味深なタイトルですね。
タバコを片手に、こちらに振り返った女性からは、
“てめーはおれを怒らせた” 的なオーラが、ひしひしと伝わって参ります。
この絵に漂う張りつめた緊張感は、ただ事ではありません。
静かな怒りが、一番怖い。
そんなことを再認識させてくれる一枚です。
ポスターを破いた犯人は、間違いなく 「ろくでなし」 呼ばわりされることでしょう。
そんな国吉康雄の新春 【シャンソン】 ショー(←まだ言うか)を見るために、
さぁ、東京国立近代美術館へ行こう!
