今回は、東京都美術館で開催中の
“フィラデルフィア美術館展 印象派と20世紀の美術” をご紹介します。
…という予定だったのですが、急きょ、中止することにいたしました。あしからず。
というのも、この美術展、今年の ‘芸術の秋’ の大本命とも言える美術展。
僕が紹介するまでもなく、すでに会場は大盛況。いや、むしろ大混雑。
出品されている作品は、本当にどれも素晴らしい絵ばかりです。
なので、当たり前のように、どの絵の前にも人、人、人…。
加えて、絵の展示の間隔が狭いものですから、どうにも身動きが取りづらくなっていました。
僕が訪れた平日の午前中ですら、このような状態でしたから、
土日になったら、どれくらいの人が会場をひしめき合うことか。
考えただけで、ぞっとします。
オルセー美術館展(#22)の時も思いましたが、
東京都美術館には、どうもそういった配慮が感じられません。
PS3販売のときに一躍ネットで時の人になったあの人の言葉を借りるなら、
「物を見るってレベルじゃねーぞ!」
と、言いたい美術展でした。
…というわけで、せっかくの芸術の秋です。
どうせ行くのなら、のんびりと、ゆったりと見られる美術展に行きたいものです。
そこで、今回おススメしたいのが、山種美術館で11月11日まで開催中の “川合玉堂展” 。
展示されているのは、『近代日本画壇の巨匠』 と呼ばれた国民的画家・川合玉堂の絵を中心に、
彼の師匠や弟子の作品なども含めて、60点ほど。
ぶらっと見に行くのには、ちょうどよい規模の美術館となっています。
川合玉堂は、「日本の自然は、玉堂が作った」と言われるほどに、
日本の自然を多く描いた画家です。
ですから、会場では、様々な日本の風景に出会うことが出来ます。
おだやかな景色から、猛々しい景色、雄大な景色に、どこか懐かしい景色まで。
そして、おそらく、どの絵からもマイナスイオンが出ています。
ハイキングに行くつもりで、山種美術館を訪れてみてはいかがでしょうか?
ちなみに、今年2007年は、玉堂の没後50年という節目の年。
50年。長いですね…。
玉堂について、よく知らないどころか、名前さえ知らないという人がいても、おかしくない年月です。
しかし、そういう人たちにこそ、玉堂の作品を見ていただきたい。
なぜなら、彼の絵ほど、現代の私たちに、ピッタリな絵はないからです。
実は、川合玉堂の絵には、最近流行のあの思想が息づいているのです。
その思想とは、そう、【LOHAS】。
カタカナで【ロハス(ローハス)】と表記することもあるこの思想。
皆様も、最近、雑誌やお店などで、目にする機会が増えてきたのではないでしょうか?
簡単に説明しますと、【LOHAS】とは、
「Lifestyles Of Health And Sustainability」 の頭文字をとったもの。
…英語のままだとわかりづらいので、日本語に意訳しますと、
『健康と環境を志向するライフスタイル』とのこと。
この【LOHAS】なる思想、1998年にアメリカで提唱されたものの、
今では、本国以上に、日本で最も普及しているそうです。
2005年の段階で、何と日本の成人の約29%が【LOHAS】層だと言うから驚きです。
いつの間に。
そんな【LOHAS】の思想が、何と50年以上も前に、
川合玉堂の絵の中に見て取れるというのが今回のお話。
では、さっそく、それを見ていきましょう。
まずは、【LOHAS】の精神の中でも大切な “自然を愛する心” についてです。
先ほども述べたように、玉堂の作品の多くは、自然を描いたもの。
例えば、写真左の 《石楠花》 (←ちなみに、“しゃくなげ” と読みます)。
日本の自然を、絵にする。
特になんのことはないような感じがしてしまいますが、
実は、玉堂の活躍した時代には、大変画期的なことでした。
というのも、当時の画題の主流は、龍や虎のような迫力ある生き物や、
同じ風景画でも、中国の超自然的な風景。
玉堂のように、日本の原風景を画題にする画家はほとんどいなかったのです。
しかし、日本の四季が織りなす美しい自然を愛した玉堂は、
それを描き続けることで、ついには独自の境地を開いたのでした。
次に、玉堂の絵に、【LOHAS】精神のもう一つの柱である
“健康志向のライフスタイル”を見て取りましょう。
写真中央の 《鵜飼》 と、後ほどまたゆっくり取り上げる写真右の 《早乙女》 を見てみてください。
どちらも自然の風景だけでなく、人が描かれています。
この2枚の絵に登場する人々の共通点は何でしょうか?
正解は、どちらとも働く人々であるという点。
玉堂は、自然を愛するだけでなく、人々の働く姿をも愛していました。
健康的に働く姿こそが、人にとって一番理想的だと考えていたのです。
これは、まさに、【LOHAS】の提唱するライフスタイルです。
特に、玉堂は “鵜飼” という画題を好んでいたようで、
その生涯で描いた “鵜飼” の絵は、何と驚きの500点!
今回の美術展でも、3点の 《鵜飼》 を見ることが出来ます。
「 “鵜飼” と言ったら玉堂、玉堂と言ったら “鵜飼” 」。
今回は、何を忘れても、この言葉だけは覚えておきましょう。
しつこいようですが、「 “鵜飼” と言ったら玉堂、玉堂と言ったら “鵜飼” 」です。
最後に、【LOHAS】という思想と切っても切れない関係にある “エコロジー” についてです。
最近では、『MOTTAINAI』 という言葉が見直されたり、エコバッグが普及したりと、
“エコロジー” に対する人々の意識は、年々高まっています。
さて、写真右の一枚 《早乙女》 という作品。
この絵もまた、とても“エコロジー”な作品と言えそうです。
まるで飛んでいる鳥からのような視点で描かれた、見ていて何とも気持ちのよい一枚です。
描かれているのは、女性たちが田植えに勤しむ姿。
トラクターを使わず、手作業で一束一束植えています。
「だから、 “エコロジー” なのだ」と、そんな単純なことを言うつもりはありません。
この絵の見どころは、絵の全体の半分くらいを占める水面の部分。
絵の具が一切使われておらず、下地である絹がそのまま見えていますね。
それが、見ていて、妙にすがすがしい。
これが西洋画なら、まず間違いなく、
水面は何らかの色の絵の具を用いて表現されていることでしょう。
しかし、玉堂は人々の足元や手元に波紋を描きこむことで水面を表現したのです。
余計な絵の具を使わない。
何とも “エコロジー” ではないですか。
【LOHAS】の考えでは、人は、精神的にも健康にならなくてはなりません。
さぁ、そのためにも、川合玉堂展へいこう!
