長年 愛用してきた
魔法瓶水筒
その保温性能には 満足していたけど
部品が多くて
分解して 洗うのが 本当に大変
暑さが本格化する ちょっと前
よりシンプルに
進化した形になっているのを
見かけ
つい 買ってしまった
にもかかわらず
この猛暑すぎる 日々
外出する機会は 激減し
1回だけ 使って 洗った水筒が
ずっと
キッチンの片隅に置かれているのを
目の端に 入れながら
私は 涼しい家の中で
日々を過ごしていた
そして
久しぶりの お出かけの日
その水筒を 手に取り
氷を入れよう と
蓋を開け
何気に 顔を近づけて
中を覗いた
その時
私の目に 映り込んだのは
想定外の 黒い物体
ぎょえええええ~
それは 微動だにしなかった
死んでいる と思われた
いったい いつ
瓶の中に入り込んだのか
1週間ほど前 だったか
私は 外出から帰って
初めて使ったその水筒を 洗い
カゴに 半日ほど伏せ
その後 上向きにして 数時間
中を 完全に乾燥したところで
蓋をした
はずだった
その 上向き乾燥中
入り込んだGに 気が付かないまま
蓋をしたか
Gも いきなり退路を塞がれ
パニックになっただろう
しかも
徐々に 酸素が減ってきて
地獄の苦しみだったに違いない…って
ちが~う!!
そういう話じゃなーい!!
私は
Gが とても とても 苦手
だから
毎年 春になったら
G用の駆除剤を 家中に
しかも
箱に書いてある 使用数の目安以上に
設置する
使った食器を
基本的に 放置することもない
我が家が
Gにとって 特段
ユートピアではないはずだ
ただ
私の住んでいるところは
住宅の密集している 市街地
たまに 道路の端を走り抜ける Gを
見かけることがある
先日は
我が家の 玄関で
宅配便を受け取り 扉を閉めた
瞬間
ちょっとした違和感を感じて
再度 開けてみたら
Gが 扉の枠に挟まって
コト切れていたこともあった
こういう環境の中で
自分だけが Gから逃れて
暮らすことなんて 不可能だ
それは Gが苦手な 私にとって
キビシイ現実だけど
受け入れるしかない
ボトルを逆さにしたら
Gは ゴロンと落ちてきた
その体長は 5センチ程はあった
想像以上に 大きく
黒光りしていた
私は 認知症母を
同居介護しているけれど
こと Gに関してだけは
母に 頼り切ってる
母は
生きてるGだって 全然 平気
Gを見かけると
急に 生き生きとして
いつもとは 別人のように
機敏に Gを追い詰める
時に 履いている自分のスリッパを
武器として
時に 自分の素手のみで
そして
かなりの高確率で とどめを刺す
だけど
その日は
あいにく 母は デイホーム
仕方ない
私は 意を決して
夏なのに サブイボをたて
目を逸らしながら
シンクに転がった Gの◯骸を
片付けた
その後
◯骸の入っていた 水筒に
洗剤を ドバドバと投入し
執拗に 洗浄
漂白剤をスプレーし
しばらく放置した後
熱湯で 消毒
もはや 我が家のどの食器より
衛生的になったはず
でも
問題は
気持ち なんだよね
この きれいにした水筒に
お茶を入れ
飲もうとする時
絶対
目に焼き付いた あの映像が
浮かんでくるはず
そんな水筒は 使いたくない
では 捨てるか
でも この子は
魔法瓶水筒として 生まれて
我が家にやってきて
まだ その役目を
ほとんど 果たしていない
ウブな水筒
だったら 使うのか
いや それは…
そんな
悩める ある日
友人Sちゃんと 会った
私は 彼女に 開口一番
この水筒G事件の話をした
ねえ
Sちゃんだったら どうする?
Sちゃんは 即答した
そりゃ 捨てる の一択よ
飲む度に
Gの残像が 頭に浮かぶんでしょ
気持ち悪いじゃん
そして 付け加えた
まあ 取っておいて
夫とケンカした時とかに
それを使わせて
密かに 溜飲を下げる
って活用法も あるかもだけど
夫が退職してから
あの人 いつも 家でゴロゴロしてて
ホント やだ
と 最近 よく愚痴ってる
Sちゃんは
サラリと 毒を吐きつつ
でも やっぱり
そんな キモいイメージが
ついたものが
キッチンにある ってだけで
私は イヤかな
Sちゃんの言うことは
もちろん よく分かる
でも
でも…なのだ
地球にやさしく とか
SDGs とか言っている
一方で
この程度のことを
キモイ と感じて
自分の周りから
その影を 一切 消し去る
この感覚は
ひととして 傲慢なのでは
生きていくことに 精一杯で
キモいとか キモくないとか
そういう発想自体
持ってない人たちだって
この地球上には
かなりの数 いるはず
そもそも
もし あの時
私より先に 母がGに気がついて
サラリと捨てていたりしたら
私は 何も知らずに
使い続けていただろう
Gは
1匹見かければ 100匹いる
という
ということは
私が 気づいてないだけで
夜中に
食器や 鍋や
まな板や 歯ブラシの上を
Gが歩いた可能性は あるわけで
でも
気づかないから
ないことになってるだけで
…これって
バレないなら
別に 浮気したっていい
って思考と 一緒だな
確かに
現実には あったとしても
知らなければ 気づかなければ
気持ち的には
なかったこと
ただ
そういうことって
完全に 隠し通せるものなのかな
隠し通せなかったら
どうするのかな
いつもは用心深く
人の目から隠れて暮らす Gだって
真夜中のキッチンに
いきなり 明かりをつけると
年に数回くらいは
うっかり その姿を晒す
もちろん 私は その時
そのGに向かって
スプレーを 噴射しまくる
隙間に逃げ込んだら
ノズルを差し込んで
見つけたからには
とにかく
執拗に追いかける
絶命するまで
いずれにしても
実は
Gと 共存生活をしている
私たち
そこを 認めた上で
もう少しだけ
ウブ水筒を キッチンの片隅に置いて
日々 それを眺めながら
自分の気持ちの 熟成を
待とう と思う
捨てるべきか 捨てざるべきか
私の
ハムレットの日々は
しばらく 続く

